「ウソップ〜!やってる?!」


私は軽い足取りで地下へ向かう階段を降りて
うきうきとした気持ちを隠しもせず高らかに声をかけた。


「おめーまた来たのかよ…」

「まあまあ、そう言わずに…
今日はおやつの差し入れがあるからさ」


ここはウソップ工場。
最近私は、このウソップ工場に
おやつやお茶の差し入れ…を口実に
ウソップに会いに来るのが日課になっている。


最初は、私の武器強化の為。
でも今は、


「で、今日もサンジの話か?」

「ばれた?」

「ばれるも何も、そもそも隠す気もねェだろ」


ビシッ!っと音が出そうなほどの勢いで
見事なツッコミをするウソップを尻目に
私は台の上にトレーを載せる。

めんどくさそうな顔をしながらも、
なんだかんだで親身になって聞いてくれたり
相談に乗ってくれるウソップは
本当に仲間思いのいいヤツだ。


ある日私が、サンジへの想いをウソップに打ち明けた時
ウソップは最初こそめちゃくちゃ驚いていたけど
(飲んでいたジュースを思いっきり吹き出した)
なんだかんだで受け入れてくれたウソップは
意外と結構聞き上手だった。


想いは、口に出した瞬間に
みるみる形をはっきりと持ち始めて
どんどん大きくなっていく。
私は話せば話すほど楽しくなって
そしてサンジへの想いが強くなっていった。
 
そうして、事あるごとに
ウソップに話を聞いてもらうようになった。


私は台の上においたトレーから
ウソップの分を取り分ける。

今日のおやつは、
チョコがたっぷりかかったドーナッツと
ナッツとドライフルーツがごろごろ入ったマフィン。

水筒も一緒に入っていて、カップに注ぐと
アールグレイの香りがふわっと漂って
テンションがあがる。


「うめェ〜!!」


早速ドーナツを頬張ったウソップは
大声をあげてひっくり返っているけど
サンジの作るものは
本当になんでもびっくりするほど美味しい。

私もマフィンをひとくち齧った。
ふわっと優しいバターの香りが鼻を抜けて
舌に広がるドライフルーツの濃厚な甘酸っぱさと
ナッツのまろやかさと歯触りが相まって
最高においしかった。


「で?今日はどうしたんだ、
いやに機嫌良いじゃねェか」


ウソップはもぐもぐと頬を膨らませながら尋ねる。


「いやぁ、今日のおやつね、
どっちも私の大好物なんだ」

「へー、そうなのか」

「うん。前にチラッと言ったことがあったんだけど。
さっき、これをキッチンで受け取る時に私が喜んでたら
"その笑顔が見たくて作ったんだ"
だって!!!!ヤバくない??」

「…おぉ、」

「はぁ…その時のサンジの笑顔、
本当にヤバかったんだよ?
心臓止まるかと思った」

「…止まらなくて良かったな」

「それにね、サンジの料理はいつも美味しいから
食べ過ぎて太っちゃうって言ったら
NAMEちゃんは太っても可愛いよ、だって!」

「…おー」

「そんなわけあるかーい!って感じだけど
結局嬉しいんだよね…そう言う事言われると…」

「そりゃよかったな」

「今日のサンジの服もおしゃれでかっこよかったな…
最近、島に近いのかあったかくなってきたでしょ?
だからジャケット着てない事が増えたんだけど
それがかっこよくてさ〜」

「へー」

「…ちょっとウソップ、ちゃんと聞いてんの??」

「いでででで!!」


テンポよく返事をするものの
明らかに適当な返事しかしてないウソップに
痺れを切らしてほっぺたをつねった。
いくら私がご機嫌だと言っても
もう少しちゃんと反応してもらわないとさすがに怒るよ。


「作業ばっかりしてないで、話ちゃんときいてよ!」

「話きいてるし、
これ、おめーの武器の調整やってんだけど」

「あ」


すっかり忘れていた。
最近、ついに賞金首になってしまった私は
今までの武器では頼りないと思って
ウソップに強化を頼んでいた。
武器の強化に関しても
最初は「専門分野じゃない」などと
嫌がっていたものの
なんだかんだで引き受けてくれている。


「ごめんごめん」


私が両手を合わせて謝ると
ウソップはため息をつきながらまた作業へと取り掛かる。


「私も、もっとトレーニングしなきゃなあ…
みんなに迷惑かけられないし。
ウソップもどんどん強くなっちゃってるし」

「おー、そうだぞ。
もう弱小チームじゃねェからな、おれは。」


2年の修行を積んで再会してからのウソップは
見違えるように強くなっていた。
もちろん皆、めちゃくちゃ強くなっていたけど
でもウソップの変化は特に目を見張るものだった。


「私がナミとかロビンくらいスタイルが良ければ
お色気要員にでもなれたかもしれないけどさ〜」

「なんだそれ。サンジしか喜ばねェだろそんな要員」


たしかに、と言って私は笑った。
しかもナミもロビンも強いしね。
でも戦いのレベルアップは当然のことながら
女としてのレベルアップも重大な問題だな、と
自分で口にして改めて実感した。


「巨乳になる悪魔の実とかないのかなあ…」

「ねェだろ…」


そんな悪魔の実があったら、みんな欲しがって
高値で売買でもされそうだな、と思いながら
マフィンを平らげた私は、ドーナツに手を出した。
ドーナツもめちゃくちゃ美味しい。
これほんとに食べ始めたら止まらないんだけど!


「それにしてもよーお前、サンジのアレ、
引いたりすることねェのか?」

「アレって?」

「女好き」


ドーナツを食べ終えたウソップは
紅茶を飲みながらそう言った。
確かに、サンジの女好きは常軌を逸している。
ナミもロビンもいつも冷ややかな目で見ていた。
しかも特に最近、
日に日に度合いが上がっている気がする。


「ない」

「うお…きっぱりと言うな…」

「ぶっちゃけ、もはや何してもかっこいいって思ってる」

「マジかよ…」


ウソップは変なものでも見るような目で私を見てきた。
失礼なやつだ。


「誰にでもしてるってわかってても、
やっぱりサンジに優しくされると、
ドキドキしちゃう」

「へえ…」

「だって、今までもいろんな女に
酷い仕打ち受けてきてるでしょ?
それなのに全て許して受け入れるなんて
かっこいいにも程があるでしょ!」

「後半がよくわかんねェな」

「というか、あのずっとエロいことばっかり
考えてるのも一周回って可愛くて面白い」

「…」


ウソップは呆れて言葉も出ない、と言った様子だった。
確かに我ながらアホだな、と思う時もあるけど
こういうのは、惚れた方が負け。
惚れてしまったからにはどうしようもない。


それからウソップは、首の後ろをぽりぽり、とかいて
少し何かを考えるような素振りをして、口を開いた。

 
「だからおめーよォ、
そんなに好きならいい加減告白したらどうだ?」

「イヤ…だからそれは無理だって」


ウソップは、私の気持ちを知った時から何度も
サンジに告白しろと言ってくる。
サンジなら女から好きだと言われればすぐ落ちる、と。
それもどうなんだって話だけど
たしかに一理あるかもしれない、とは思った。
でも、もしそうじゃなかったら?
そう思うととてもじゃないけど、
好きだなんて伝える勇気は出なかった。


「別にいいんだもん…私は今のままでも…」

「嘘つけ。
おめー、この前の島でだって、
サンジがナンパしてるところ
恨めしそ〜な顔で見てたじゃねーか」

「うっ…」


痛いところをつかれた。
本当は、このままでいいわけじゃない。
私だって、そりゃヤキモチも妬くし不安になる。
でもどうしても、勇気が出ないだけ。


「まあ、この船にいる限りは決まった相手
見つけたりもねェだろうけどよ。
どーすんだよ、もし次に仲間になったのが女で
それこそその女とサンジがくっついたら」

「…無理すぎる」

「だろ?だから早く言っちまえって」

「…他人事だと思って簡単に言ってんでしょ」


ばれたか、と笑うウソップにゲンコツを落とした。
でも、ウソップの言う事にも一理ある。
それどころか、まったくもってその通りだと思う。

好きだと言ったら、もちろん喜んではくれるだろう。
でもきっと、それだけ。
私だから喜ぶわけじゃない。
きっと、誰から言われたって同じ。
サンジは既に、この世の全ての
レディを愛したいと宣言している。
きっと、誰のものになるつもりもない。
私がそう言うとウソップは困った顔をした。


「万が一、あのサンジがたった1人の人を
特別に思うことがあったとしても…
それは私じゃないよ」

「…なんでだよ」

「この船にはナミとロビンがいるんだよ?
あんな誰が見ても最高のいい女たちと毎日一緒にいて
私みたいな普通の女選ぶ男いる!?」

「お前…それ自分で言ってて悲しくねーのか?」

「めちゃくちゃ悲しいけど事実。」

「いやいや…ていうかお前
そもそも自分で思ってるほど普通じゃねェぞ…」


ウソップは何故か納得いかない様子で、
何かを言いたそうに
曖昧な態度をするままだった。


ウソップは優しい。
私の話をこんなにも親身になって聞いてくれるから。
だから私も、甘えてしまう。


「サンジはさあ…王子様みたいじゃん?」

「お前…頭大丈夫か?」

「いやいやいや!考えても見てよ…
あのサラサラの金髪に長い足、
背も高くて細身に見えるけど実はすっごい筋肉質で…
顔も超綺麗〜な顔してるじゃん!
そしてあの身のこなしに優しさ。
なんか、品があるっていうか
絶対王子様的な何かだと思うんだよね」

「お、おお…」

「だから、こう…現実味ないっていうか?
おこがましいっていうか?」

「お前そりゃ…」


「NAMEちゅわぁ〜ん!!
お茶のおかわり淹れてきたよ〜!!♡♡」


突然、背後から声が聞こえてきて、
私は飛び上がって驚いた。
その声は、他でもないサンジだったから。

まさかここにサンジが来るなんて
考えてもいなかった上に
この絶妙すぎるタイミング。

今の話、聞かれてたらどうしよう
と思って心底焦ったけれど
サンジはいつもと変わらない様子で
体をくねくねさせてハートを撒き散らしていたから
きっと、大丈夫だろう。


「あ、ありがとう」 

「そろそろポットに入れてたお茶が
なくなるかなぁと思って」


にっこりと笑って、
スマートな動きでポットの入れ替えをするサンジ。

私はさっきまでサンジの好きなところを
ぶちまけていた余韻も相まってか
サンジの前にいる時の
「普通の仲間」スイッチをうまく切り替えられなくて
ぼーっと目の前のサンジに見惚れてしまっていた。


「NAMEちゃん?どうかした?」


サンジに声をかけられて、ハッと我に返った。


「な、なんでもない!!あ!あ!私用事あるんだった!
サンジ紅茶ありがとう!
せっかくだからこのまま貰ってくね!
ウソップじゃあ武器よろしく!!!」


私は焦って、早口で捲し立てるように
言葉を羅列しその場を後にした。
サンジは笑顔でひらひらと手を振っていたけど
まともに手を振り返すことさえも、
きっと多分忘れていた。

誰かどう見ても混乱していて、
様子がおかしく見えただろう。
ダッシュでその場を離れてから、
なんであんな気持ち悪い反応ちゃったんだろうと
自己嫌悪に陥った。



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