蝉の声も聞き慣れてきた9月。二学期がはじまったばかりのタイミングで先生は言った。席替えをする、と。
後方チームは残念がり、前方チームは目に見えて喜んでいる。かくいう私も後方チーム。残念な理由はひとつだけではなく。斜め前の臣くんが頬杖をついたまま私の方をチラ見した。虚ろな目で。多分考えてることは同じだ。せっかく臣くん後ろから見放題だったのに。
「さっさと終わらせたいだろ。先生、くじ作ってきたから廊下側の前から順番に引けー」
まぁ先生の準備の良いこと。黄緑のプラスチックのかごに恐らく人数分のくじが入っているのを一番後ろから眺め、ぼーっとしながら待つ。なんせ私は一番最後だからだ。嫌だなぁ、席替え。
「イエーイ!窓際の後ろゲット〜」
くじを開いて歓喜したり、落ち込んだり、様々。そして私の席はお調子者のクラスメイトが座ることになったらしい。よかったね、日向ぼっこし放題だよ。
順番が来た臣くんが立ち上がり、黄緑のかごからくじを引いて戻ってきた。何番だったんだろ。隣の男子がくじを引き、先生の前で開いてから戻ってくると、まじか〜〜!と明らかなリアクションをした。ほぼ100%悪い方だと思う。
「なー、佐久早何番?」
「……6」
「は!?一番後ろかよ!変わってくんない?」
「無理」
臣くんは廊下側の一番後ろなんだ。近かったら二重でラッキーだな私!
そんなことを思いながらきっぱり言い切った臣くんにこっそり笑っていると、ついに私の番だ。さあ残り物に福があるかどうだか。ドキドキ。先生の元へ行き、残りの1枚を引く。
「みょうじ、また一番後ろだな」
開く前に伝えられ、そうなの?とキョトンとする。それより重要なことがあるし。
くじを開き書かれていたのは……12番。私席替えに運使いまくってる……?ていうか臣くんの隣だ!
席に戻る最中に先生が「移動しろ〜」と声をかけたものだから、滑り止めのゴムの音がうるさく教室に響く。臣くんは私が戻ってくるのを目で追っていて、視線が交わると耐えられずへらりと笑った。うるさい教室内、臣くんの横を通りすぎるついでに近づいてこっそり報告する。
「隣だったよ」
「……俺の?」
臣くんに大きく頷いて自分の机に椅子を乗せて移動する。踊り出したい気分だ。全員の移動が済み、椅子をおろして座った。左側から視線を感じるのは、間違いなく臣くん。嬉しすぎてどうしたらいいものかわからない。というか、私ばっかり見てた状況が、お互い気軽に見れる状況に変わったって大違いだと思う。
「前より近いね」
「うん」
こそこそと話しているといつの間に朝のHRが終わり、先生が黄緑の空のかごを出席簿の上に乗せて教室を出ていった。みんな新しい席に変わったからか回りと話したり、離れてしまった仲良しの子の近くに行って話したり。
「あれ?席替えしてんじゃん!佐久早は?」
よく響く元気な声。ちょうど話していた臣くんの様子を見ても、私の聞いた感じでも、多分古森くんだ。教室の前のドアを見ると、やっぱり古森くんがいた。目が合ってこちらに向かいながら話している。
「みょうじ、前も一番後ろじゃなかった?いいなー!……って、お前ら次は隣なの?」
「うん、まさかの」
柱に隠され見えなかった臣くんが見えると、古森くんはケラケラ楽しそうに笑っている。
「へぇ〜授業中いちゃつくなよ」
「……うるせぇ。それより部活の話で来たんだろ」
めんどくさそうにそう言った臣くんは、1時間目の教科書を出しながら部活のメニューだかなんだかの報告を受けている。
「ねえねえ、なまえちゃん」
前の席になったクラスメイトが振り返り、キラキラした目を向けてきた。え、な、なに?
「やっぱり佐久早と付き合ってたんだ〜!いつから?噂の時から?ほら、相合い傘の」
「あー…、ちがう。もっと最近…かな?」
噂。あったあった、そんなこと。そうだよね。わざわざ公言してなくても、わかる人にはわかるものらしい。女子は特にその手の話に敏感だったりするし。隠してた訳じゃないけど、聞かれるとそれはそれで恥ずかしい。臣くんとのやりとりは結構慣れてきたけど、周りからはっきり言われるのは初めてだ。自分達から報告した人たちは抜きとして。
「それで、佐久早となんで付き合うことになったの?どっちから?気になる〜」
「…あはは」
浮いた話のなかった臣くんとクラスメイトが付き合ってるのを突然知ったのだ、わからなくもない。しかも苦し紛れの苦笑いでもごまかしがきかないほどの勢いだ。臣くんを見ると、小森くんの話は聞いてるのか聞いてないのか私の方をじーっと見ていた。
「…おい。あんま困らせんなよ」
興味津々のクラスメイトに向けて言ったその一言で、矛先は臣くんへと向いたのは言うまでもない。もちろんだんまりだったけど。