ペーパーポンポンで飾られた立看板。クラスのお揃いのTシャツ。フランクフルトにかき氷に焼きそばにカフェにお化け屋敷。他にもいっぱい。熱気と活気と期待の空気に自然とテンションが上がる。

 今年の文化祭は去年とはひと味違う。佐久早聖臣くんという彼氏の存在もあるし、付き合ってるのがクラス中に知れたおかげで臣くんと休憩時間を合わせてもらえたのだ。嬉しくて考えなしに「一緒にまわるひといる?」なんて聞いたら「なまえちゃん」となに言ってんのなんて意味を含ませたように言う臣くんの視線はとても甘かった。

 ちなみにうちのクラスはクレープをやることに決まり、臣くんは看板を持って立っている係で、私はレジ。なるべく人にぶつからないように壁際にいる臣くんを想像すると、笑えて仕方ない。ああそっか。休憩がかぶらなかったらこっそり見に行けたのんだよね。でも一緒に回ったほうが何倍も幸せだろうな。

「あ!クレープだって!」
「食べたい?」
「うん!」
「いらっしゃいませー」
「バナナチョコと……なにする?」
「私イチゴカスタード!」
「ふたつで600円ですね」

 ちょうど600円を手のひらで受けとる。しばらくしてクレープを受け取り、手を繋いでお店を離れた仲良しカップルはベンチでも座ってクレープを食べるんだと思うと微笑ましいなんて思った。

「ただいま〜」

 満足気な表情で帰ってきたのは臣くんと入れ替わりになる子。てことはもう私たちも休憩時間になるというわけだ。

「おかえりー。回れた?」
「なんとかね。会う人会う人みんなにお化け屋敷怖いって聞いて行ったんだけど、想像以上。泣くかと思った。なまえちゃんお化け屋敷平気な人?」
「最近入ってないからなぁ。多分……平気じゃない人かな」
「……へぇ。苦手なんだ」

 看板と共に現れたのは臣くん。ぽつりとそう呟いたあと、看板をその辺に立てかけた。その口ぶり。さては全然平気なタイプなのかな。時計を見ると若干フライング気味で戻ってきたことがわかる。入れ替えメンバーが早めに戻ってくることをなんとなくわかっていたんだと思う。
 私と交代の子も戻ってきたのが見えて制服のポケットに携帯とお母さんに借りた小さながま口財布を入れると、準備万端の臣くんのうしろにくっついた。

「いってらっしゃーい。時間には戻ってきてよー」
「はーい」

 振り向いて返事をしていると、臣くんは先にあった水道で早くも丁寧に手を洗っていた。さすが綺麗好き。視線に促されて私も手を洗ってハンカチで手を拭いた。

「なまえちゃんまわりたいとこある?」
「ずっとクレープ見てたからかなぁ。お腹は空いてないんだよね。臣くんは?何かある?」
「……強いて言えば休憩したい」

 小さくたたんでポケットに入れていたパンフレットを広げながら話していた私は、その言葉を聞いておもわず視線を下げて声を殺して笑った。本当、なんて面白いんだろう。正直すぎるのは臣くんの良いところだと私は思う。無理して包み隠されるより全然いい。

「じゃあまわるだけ回ってみて、休憩する?」
「うん」

 私が人の少なそうなところから回ろうとルートを探っていると、よくしった大きな手にぶらんとしていた私の手が包まれた。みんなお祭り気分とはいえ、やっぱり臣くんは目立つ。そして手を繋いでる私も必然的に目立つ。

「……こっち行こ」
「あ、うん」

 毎日来る学校。見慣れた校舎の中。それなのに新鮮味が半端じゃない。総合的に見て臣くんが重要なスパイスになっている。
 1年生の教室を回って、3年生の教室を回って。臣くんの気持ちが私に伝染したのか、あんまりそそられない。そして2年生の教室を回りはじめてすぐ、黒いカーテンで教室の中が隠されたクラス。そう。お化け屋敷。しかも行列できてるんですけど。みんな怖いのが好きなの…?それとも怖くないの…?

「あー!カップル発見!」

 ボロボロの血だらけTシャツを着た古森くんが楽しそうに私たちを見てそう言った。聞くところによると古森くんは入り口の案内係らしく、危なげのない表情で私の絶対に入りたくない場所へと並ぶ人々を案内していく。

「ギャー!!!」

 キャーじゃない、ギャーなんて恐ろしい。臣くんの手をぎゅっと強く握り直して通り過ぎようかと思っていたら、古森くんが「今空いてる方だよ」なんて言ってから、臣くんに何か耳打ちした。

「入ってみるか」
「……そんなに入りたいなら臣くん一人で行っていいよ」
「こん中にいるの同級生だろ。怖いわけ?なまえちゃん」

 ぶんぶんと頷いているのに臣くんは私の握り直した手をそのまま引っ張って列に並んだ。古森くんなに吹き込んだの。
 すでに肝が冷えている。何度か悲鳴を聞いたあと、列の先頭にきてしまい、古森くんと臣くんが話している。

「中の奴、触ってこないよな?」
「うん。触んないけど……なんでもない」
「え!?けどなに?」

 私の顔を見て言うのを辞めた古森くんは、ネタバレのしすぎはよくないと思ったらしくあからさまに聞こえないふりをした。

「古森くん。前と後ろ、どっちが怖い?」
「んー……前かな!」

 なんの疑いもなく心に決める。じゃあ後ろに隠れてよう、と。