大きな黒い傘の中で肩を寄せ合ったのは久しぶりのことだった。駅で待ち合わせをして、学校へ向かう道中。私の左手には閉じたままの水玉の傘。前後に他の生徒はいるものの、まだまだ少ない方だ。私に合わせて低く傘を持ってくれている臣くんが濡れてしまっていないだろうかと反対側の肩を覗くと、これっぽっちも濡れていなかった。こういうのって大体どっちかが濡れてて「濡れてる。もっとこっち寄れば」とか言う流れになるのが基本なはずなんだけど。

「……今なに考えてんの」
「臣くん傘差すの上手いなーって」
「あぁ」
「どっちかが濡れること多いし、ドラマとかだと。こう、ガッとさ」

 肩を抱くような仕草をして見せると、傘を持ち変えた大きな手のひらが私の手を傘の中におさめて戻っていった。濡れるからやめとけということだと思う。

 びしょびしょの傘についた水気を開閉しながら切って丁寧に綴じる臣くんを待っていると、下駄箱の向こう。廊下からキュ、キュと上履きの音がして、続けざまに声がした。

「みて!佐久早先輩。彼女さんもいる〜。一緒に来たのかな?」
「やっぱ背高いねー」

 聞こえるか聞こえないか。人が普通にいたら聞こえないくらいの声。臣くんといると、どこにいたって注目される。それは彼女たちの言う通り、高校生としては類を見ない背の高さは大きく関係すると思う。オーラとかそういうのは置いといて。
 上履きに履き替えて隣を見ると、下駄箱の上のほこりなんて覗き込めば見えてしまうくらいの彼が私を見下ろす。

「そういえば、臣くんって身長何センチなの?」
「189」
「………そんなにあったんだ!」

 爪先から頭のてっぺんまで。カメラマンがパーンするみたいに視線を動かしたら、怪訝な表情をされた。たしかに下駄箱のほこりだって気になるはずだ。私がそのくらい大きかったら、世界は違って見えるのかもしれない。私のつむじだって、しょっちゅう丸見えなんだと思うとなんだか恥ずかしい。

「高いからって別にどうってことないだろ」
「どうってことなくないでしょ。いつも見てるからきっとそう思うんだよー!私も経験してみたいなぁ」
「……なまえちゃんはそのくらいが丁度いいよ」
「なにが丁度いいの?」
「さぁ……サイズ感?」

 アバウトな返答だ。それはそれで妙に心地良く染み込んだ。階段を登り、先を歩く。私は2歩下がっておしとやかにいれるほど乙女な心は持っていないけど、せっかく好きだと言い合える人がいる時間を自分なりに大切にしたい。他から見ればパターン化した逢瀬だって、毎回新鮮に思えるくらい、私は臣くんが好きだ。自惚れかもしれないけど臣くんも多分、それなりに私を好きでいてくれているんじゃないかって思う。そう、思わせてくれる。

 ふと振り向くと、いつもよりも臣くんは小さくなっていた。当たり前だ、2段下に臣くんが立ってるんだし。誰もいない階段。手を伸ばして綺麗な黒髪を触ると、すぐに手首を掴まれて外された。これっぽっちもショックじゃないのは向けられた視線があったかくて、そのまま手を繋がれたから。

「……髪。湿ってるから嫌だ」
「晴れてたらいいの?」
「…まぁいいよ」
「くもりは?」
「……自分で考えて」

 ため息混じり。誰もが呆れたように聞こえるそれは、多分違う。達観していて冷静で高校生じゃないみたいな彼も、半分正解で半分不正解。