夢と魔法の国では、誰もが子供みたいにはしゃいでいる。出口へ向かう小さな子供も、お土産屋さんの中でお土産を選ぶカップルも、お洒落な街灯に照らされてスキップをして現れた親子も。思わず臣くんと視線を交わらすと、瞬きを数回した。
お城をバックに写真を撮りたい人たちが列を成していて、折角の記念に撮りたいとひっそりと思う。でも列にならんで人に撮ってもらうのはなんだか恥ずかしくて、臣くんの手を引っ張って歩みを止めた。
「写真撮ろうよ」
「……並ぶの?」
「そこまでしなくてもいいんだけど……あ。あの辺がいい」
正面じゃないけれど、後ろを歩く人のタイミングによってはいい写真が撮れそうなところを見つけて、インカメラにした携帯を持ち上げた。普段自撮りなんてしないものの、こういう時こそ使うべきなのは流石にわかる。
しれっと逃げようとした臣くんを引っ張って画面の中に納めさせると、笑いもせず私の携帯を見て止まってくれていた。精一杯手を伸ばして写真を撮ると、なんだか角度がイマイチで、お城の収まりも悪いし、なんだか全体的に近い。
「うーん……」
「貸して」
長い腕が私の携帯を遠くへ運び、これでいい?と確認をされる。顔が近いこととか、今めちゃくちゃときめいていることとか、そんなこんなで忙しくてこくこくと頷いた。やっぱり、臣くんは優しい。知っている人はいるかもしれないけど、なるべく知られたくないと厭らしく思ってしまう。そんなことを口にしたら、臣くんはどんな顔をするんだろうか。
▽ △ ▽ △
浮く系の絶叫アトラクションは苦手だけど、スピードが早い絶叫アトラクションは好き。ひとつだけどうしても乗りたいのがあって、淡々とした表情の臣くんにお願いをして列に並んだ。
「50分待ちだって」
「……長い」
「これでも待ち時間短い方だと思うよ?」
「は?これで?」
「うん、アフター6って初めてだけど、のんびりできていいね。一日中だとあれこれ乗りたくなっちゃうもんね」
全く理解できないという表情で私を見る臣くんが面白くて、お腹を抱える。休日はもれなく電車も園内も混雑しているし、一日中何度もこの待ち時間を味わうことになるし、臣くんの選んだアフター6という選択は正解だったんじゃないかと思う。
中学生か、高校生か、いつからか耳にするようになったジンクス的なものがある。ネズミーランドに行ったカップルは別れる、というもの。別れるカップルは目立つけど、そのまま付き合っているカップルも沢山いると思う。でもこの待ち時間で、どちらかがイライラしたのがきっかけで険悪になるのも普通にわかる。
「パレード見て、花火見て、そしたらもう帰る時間くらいだよね」
「そんなもんか」
「電車混まないように花火終わったら帰ろっか」
「……ああ」
そんなもんか、って。臣くんはどんな覚悟をしていたんだと若干謎が深まる。列は着実に進んでいた。お客さんが飽きないように見える世界は少しずつ変わっていく。私はとっても楽しいけれど、臣くんも少しは楽しんでくれているんだろうか。楽しんでくれていたらいいな。とはいえ只今、暇な時間の真っ最中だ。マップの裏のフードメニューを見て、お腹を空かせていると、臣くんもそれを覗き込んで真剣にどれを食べたいか考えているようだった。
待ち時間の間に食べようと買ったキャラメルポップコーンの残りはあと少しで、大きな粒を取って何気なく臣くんの口に運ぶと、背中を丸め、マスクを下げて口を開けた。うっ……!母性みたいなそれが心臓に直接衝撃を与えて、乾いて固まったキャラメルが臣くんのマスクの下からポリポリと音をさせる。
「…なにその顔」
「キュンとしました」
「は?どこが」
「……まだあるよ、食べる?」
「いらない」
ちぇーっと心の中で残念がり、臣くんから視線をずらした。小さなポップコーンの欠片をぽいぽい口に入れて、ふと後ろを振り返ると、カップルがいちゃいちゃしている。肩と腰をお互い抱き合って見つめ合って。慌ててゆっくり周りを見れば、高校生のカップルは大体みんなそんな感じだった。自然と目の合った男子高校生グループが、私たちの方を見て話をしている。
「あの彼氏の方すげーでかくない?」
「うわ、ほんとだ。なに食ったらあんな伸びんだろ」
「お前チビだもんな〜」
「うっせー」
見上げれば、臣くんの変わらない表情がある。聞こえているのか、聞こえていないのかは別として、臣くんはいつもこうして知らない人に注目をされているんだと改めてそう思った瞬間だった。
「俺あの彼女タイプだわー」
………ん?なんか空耳が聞こえたような。その男子高校生グループ中の誰かがそう言ってすぐ、臣くんが私の手を引いて位置を代わるように促した。なにもそこまですることじゃないとは思ったけれど、臣くんの促すままに位置を変わると、体を少しだけこちらに向けて私を隠してくれているようだった。
「はぁ」
「……?」
「……こっち見んなよ」
大きなため息と共に、嫉妬がこぼれる。臣くんの呟きにじわじわ胸が熱くなり、我慢できずに臣くんの腰に両手をまわした。実はやきもち焼きな臣くんが、とても愛しくて。