パレードの最中、キャラクターの名前を呼んだり、手を振る周囲の人々を尻目に臣くんは「みてみて!」とテンションの上がる私と何故かよく目が合っていたし、なんならちょっと笑っていたような気もする。
「パレード見てなかったでしょ、臣くん」
かわいいゴミ箱をがらがらと引いたキャストさんに近付き、ごみを捨てた後にそう言うと、臣くんは静かに明後日の方を向いた。なんとなく予想はあったけれど、口にしてくれないのは知っていた。いじわるな私がいるのは、楽しくて仕方ないせいだと思うことにして。
子供の頃、家族でネズミーランドに行ったとき。私はいつも、同じ場所で花火を見ていた。混み合うほど人気の場所でもなく、穴場なわけでもなかったけれど、いつも回るルートの終盤がそこだった。人はあまりいなくて、私はそこで臣くんと花火が見たかった。携帯で時間を確認すると、花火が上がるまでもう少し、あと数分だった。臣くんのコートのポケットに繋がったままの手がお邪魔して、ぬくぬくと暖かい。
「……やっぱり子供の時とは違うよな」
「何の話?」
「ネズミーランド。子供ん時に家族と来た以来だった」
「そっか………そっかぁ、」
「なんだよ」
「なんでもない」
この。この幸せな気持ちを。じんわりと思い出のある場所で噛み締めることができて良かった。もしも過去に臣くんに彼女がいても、いなくても。恋人とネズミーランドに来たという記憶がお互いに初めてで一緒なものになるんだ、って。
ゆったりと話をしていると、最初の花火が上がり、視線は空に集中した。お城が見えて、その後ろに次々と花火が上がる。ネズミーランドについたばかりの時よりも確実に気温は下がっていて、繋いでいない方の手を自分のコートのポケットに入れる。
「寒い?」
「手出しっぱなしだったから」
臣くんも首をすくめて、寒そうに私にそう聞くものだから、平気な顔でゆるりと笑って花火に視線を戻すとポケットにお邪魔していた手を抜かれ、絡まった指をほどかれた。
隣から臣くんの気配がふとなくなり、後ろから大きなコートを広げて包まれると、心臓が跳び跳ねる。背中に臣くんの体温が伝わり、手は繋いでいなくてもポケットに突っ込まれた臣くんの両手が布越しに当たっているのがわかる。私の頭の上に臣くんの頬が時折触れて、くすぐったい。
「臣くん」
「……」
「暖かい」
「…だな」
花火大会ほどの花火の量が上がらないのはわかってて。きっとあともう少しで花火が終わる。滅多にないことばかりの放課後はあっという間だった。もう少しで帰るんだと思うと、寂しさを感じる。帰るところも一緒だったらいいのにって、ありえないことを思って。
告げることもなく上がらなくなった花火のない夜空を見て、臣くんは私から離れてコートを閉じた。ぞろぞろと人が流れ始めて、臣くんと私も出口へ向かうことにした。臣くんがこれから満員電車に乗るのを回避するため、私が早歩きをしたら、臣くんも本領発揮をして、長い足を使って大きな歩幅で歩く。出口のキャストさんに小さく手を振り、また早足を再開する。
残念ながら今は花火の余韻に浸る暇はない。今の最優先はなるべく早い電車に乗ることだ。電車に乗ったら、じっくり余韻に浸ることにしよう。
▽ △ ▽ △
本気を出したら臣くんがあんなに歩くのが早いなんて、さっきみたいに急ぐことがなければいつまでも知らなかったかもしれない。一番端の席とその隣が空いて、私たちはそこに座る。臣くんに端をゆずり、私は臣くんとOLさんに挟まれている。
そうだよね、臣くんもさすがに疲れたよね。
うとうとし始めると瞼が重くなり、知らない間に数秒ずつ時が過ぎている。臣くんの手が私の頭を自分の方へ寄せて、着いたら教える、なんて言われればお言葉に甘えない手はなくて、瞼を下ろして小さな声で呟いた。眠るのはもったいないけれど、話もしたいし、この状況も味わいたい。
「私たち、もうすぐ3年だね」
「……受験か」
「うん。一緒のクラスになるかな」
「どうだろうな」
臣くんがどんな顔をしているのか、瞼が重くて開けられないけれど、心地よさに沈みながら思う。臣くんと私の、彼氏彼女という関係がずっと続けばいいな。もしもそばに居られるなら、自分の一部みたいになっていくのかな。
「なまえちゃん」
「……」
「……もう寝てる」
おやすみとか、おはようとか。そんな言葉を目の前で言える日々が、夢じゃなくて、現実になればいいな。
静かに穏やかに過ぎる日々を、大切にしよう。青春という言葉で終わらないように。