ほんのり生乾きの洗濯物に扇風機の風を当て続けて数時間。ごはんもお風呂も全て済ませたなまえは、大きなあくびをしてから確認のためにバスタオルを触った。

「あ。乾いてる」

 ひとつひとつ確認しながら、ピンチから洗濯物を外してかごに入れていく。今日はお天気があまり良くなかったから、もともと洗濯物は少なくて、洗濯かごは半分ほどしか埋まらない。横にあるベッドをチラ見して、早く寝転がりたい欲求をひしひしと感じながらなまえは洗濯物を畳みだす。今、ごろーんてしたら多分眠ってしまいそうな気がする。
 寝室の扉が開き、なまえの様子を覗いたのは聖臣だ。しっかりドライヤーで髪を乾かし、加湿器のタンクを右手に持って。

「全部乾いてた?」
「うん」
「……どうしたのなまえちゃん」
「……眠い」
「もう寝たら」
「うん。これやったらにしようかな」

 加湿器にタンクをセットし、フローリングに座るなまえの隣に聖臣が座った。特段何か言うわけでもないが、なまえにはわかる。手伝うよ、という声に出さない声に。
 聖臣が手伝うとなれば、なまえも眠かろうがなんだろうが無意識に丁寧に畳んでしまう不思議な現象が起きるのはいつものこと。バスタオルの端と端を合わせ、棚のサイズに合わせて三つ折に。そしてまた半分。
 手伝う度にこれを見せられては、なまえが無意識に丁寧になるのも、仕方がない。洗濯物の畳み方くらいで喧嘩になることはないが、聖臣のものに関してはぴっちりと並ぶ引き出しの中身に合うように丁寧に畳んでいるようだ。バスタオルを畳んだ風をほんのり受けた聖臣が、鼻を寄せて呟く。

「……あ。匂い変わった」
「柔軟剤変えたよ。大丈夫?甘くないよね?」
「うん」

 ドラッグストアの柔軟剤コーナーでシャカシャカと音の鳴るビーズ状のサンプルで香りを確認しまくったなまえの努力は報われたみたいだ。聖臣にフローラルの香りを纏わせるのはさすがに気が引けるようだ。
改めて手を動かし始めると、聖臣も残りの洗濯を畳み始めた。実のところ、柔軟剤が変わったとかそんな話はすることがあったが、なまえが甘い匂いを避けているのまではさすがに聖臣も知らなくて、なまえの気遣いに黙ったまま驚いた。

 すぐにかごは空っぽになった。もともと少なかったことも、ふたりでやったことも相まって。なまえは、畳んだ服を引き出しにしまい、洗濯かごを脱衣所に戻した。キッチンで水を飲む聖臣の隣に目を擦りながら立ち、そっと聖臣を見上げる。

「臣くんお先に。私先に寝るね」
「えっ」
「……ん?」
「俺ももう寝る」
「うん」

 シンクにグラスを置いた聖臣が、リビングの電気を消して寝室へ向かう。二人とも比較的ベッドに入る時間は早い。先にベッドに潜ったなまえを見てから加湿器のスイッチを入れ、掛布団をめくり、背を向けるなまえにくっついた。なまえは待望のベッドの中で今日のベストポジションを探る最中だ。もぞもぞと聖臣の方に体を向けると、大きな手がなまえの背中までまわる。

「……臣くん」

 ベストポジションに入ったなまえがゆったりと瞬きをする。そしてまた目を閉じ、大きな体に手を回す。

「明日はシーツ洗えるかな」
「……晴れんの?」
「うん。ソラタローが言ってたよ」
「喋るっけ。あいつ」
「んー…」
「…いや。喋んないだろ」
「……」
「なまえちゃん?」

 すやすやと寝息が聞こえた聖臣は、なまえの寝顔を覗くべく、ずるずると下へ行く。今日は窓ガラスがピカピカだったし、家が全体的にいつも以上に綺麗だった。多分、暇だからと掃除を頑張ってくれてたんだろう。足をベッドからはみ出して、なまえの顔を飽きるまで眺め、元に戻る。
 聖臣は知っている。なまえは自分ほど潔癖ではないし、掃除もあまり得意じゃない。あと、褒められたくてやってるわけじゃないのもなんとなくわかる。

『臣くん見て!今日窓ガラス掃除したんだ!綺麗じゃない?』

 ふと想像したはしゃぐなまえに、ちょっと可愛いかもと思ったものの、なんか……やっぱりいつものなまえちゃんがいい。そう思ったのは、聖臣も目を閉じてからだった。