うっかりカーディガンを洗濯かごに入れてしまった私を恨むばかりだ。ようやく洗濯に取りかかったお母さんが丁寧に私のカーディガンを平干ししてくれているのを見て「あ〜!」と言ったのはつい30分ほど前のことだった。
『おはよう。今日は早く行けなくなっちゃった。』
『わかった。』
臣くんから簡単な文章のメールはすぐに返ってきて、ごめん、と携帯に向かって謝ったのも、その時だった。
今日はぽかぽか陽気とは言えないけど、すごく寒いわけでもない。Yシャツの袖口から忍び込む風が時折冷たい程度だ。
諦め悪く30分も待ったのは、思い浮かぶまわりのみんなは当たり前のようにカーディガン姿で校内を歩いているからだった。嫌って程ではないけれど、なんだか恥ずかしくなりそうな気もしたりして。
「なまえ、もうそろそろ行かないと遅刻するよ」
「うん。行ってくる」
▽ △ ▽ △
なんとなく考えていた通り、まだまだブラウス姿の生徒はあまりいない。ただ唯一、特別に嬉しかったのは、教室に入って視界に納めた臣くんがYシャツ姿だったことだった。ほとんどの人はカーディガンとブレザーで調節をしているけど、臣くんに至ってはインナーも調節材料に入っている為、簡単に合点がいった。
「臣くん、朝ごめんね」
「…別にいいけど。珍しいな」
「うん。ちょっと色々ありまして」
じっくりと私を見た臣くんは、カーディガンは?忘れたの?と不思議そうに言う。やっぱり臣くんが見ても、私がカーディガンを着ていないことはひっかかる部分らしい。
「忘れたっていうか、ちょっと違うっていうか」
「……」
「洗っちゃったっていうか」
「ふ」
珍しく。臣くんが声を出して笑う。声を出したに入るのかわかんないけど、とにかく笑った。可笑しそうに私を見て。複雑なような、嬉しいような。どっちかって言えば後者かな。
おもむろにフックにかけたバッグに手を突っ込んだ臣くんが、きれいに畳まれたカーディガンを出してきちんとかかったボタンを全て外した。
なんだ。臣くん、仲間じゃなくなっちゃうんじゃん。こっそりカーディガン持ってたなんて。
「着てていいよ。なまえちゃんにはでかいけど」
「あ、私……?」
「他に誰がいんの」
「え。いたら困る」
「…いるかよ」
帰りまでな、なんて言った臣くんは、私の肩にカーディガンを広げて掛けてくれた。ぶかぶかのカーディガンは、スカートが隠れそうなほど私には長い。なんだかちょっと恥ずかしいけど、着ないよりはいいのかもと、とりあえず袖を通す。クラスのみんなも、なんだか私たちを見ているような、見ていないような。堂々と見渡せないからその正解はわからないままだ。
「一番下のボタンまで留めたら裾あがるかな」
「多分、」
カーディガンの中でくしゃくしゃになったブラウスの袖を直している間に、大きな手が器用に私の襟を整えてボタンを留めていく。なんだかどころじゃない、かなり恥ずかしくなってきた。でも、着ないよりはいい、はず。
「あ、ありがとう」
「うん」
裾を持ち上げてスカートが見えるようにたるませていると、上から下までゆっくりチェックした臣くんが、ブカブカだな、と呟く。ほんのりいつも臣くんから香る柔軟剤の匂いがして、嬉しさと恥ずかしさがじわじわと同時に込み上げた。
視界に収まる臣くんの後ろのクラスメイトは甘酸っぱいものでも見たような顔をしていて、うっかり目を合わせてしまった私にへらりと意味深に笑った。
なんでもないように、いつも通りみたいに、よくあることみたいに。何食わぬ顔でカーディガンを貸してくれた臣くんは、余裕で、へっちゃらのかな。私はちょっと今、恥ずかしくて周りを見る余裕がこれっぽっちもないけれど。もう、この状況では着ない方が恥ずかしくないかもしれないとまで思う。
「…これきりにしてよ」
「や、やっぱり返した方がいい?」
「…そうじゃなくて」
「……?」
「学校では貸したくないんだよ」
長い長い袖を丁寧に一回折り曲げながら、座ったままの臣くんが私へと静かでほんのり甘い視線を送った。
まるでこの教室に、臣くんと私しかいないみたいに。
3万打いちゃいちゃリクエストより