るんるん気分で教室に戻ってきたお調子者のクラスメイトが、個包装のお菓子を何個か握りしめて席に戻る。私が元いた、窓際の一番後ろに。

「なーなーお菓子持ってる?」
「あるけど、なに?」
「トリックオアトリート!」

 隣の席の子が頬杖をついたまま差し出された手をパシッとはたき、なに言ってんの、と呆れたように言ったのを見て耐えられずに顔を背けて笑う。隣の席の臣くんと目が合ってすぐ、いって〜!とわざとらしい声が響き、口角が勝手に上がっていく。
 見るからにハロウィンに興味の無さそうな臣くんは、彼に対して呆れたような、どうでもいいような表情を向けているのは言うまでもない。

「……ハロウィンの何が面白いわけ?」
「子供たちはお菓子もらえるとか、大人は仮装するのが楽しいとか……じゃないかな?」
「……あいつも子供みたいなもんか」

 子供みたいと言われた彼を私も見ながら、否定のしようのない臣くんの発言にすんなりと同意しそうになる。だって、あまりに的を得すぎていて。
 なんだかんだやんややんや楽しそうな2人のやり取りが面白すぎて、机の上で組んだ腕に頭を乗せて再び視線を注いでいれば、臣くんの方からカサカサと音が聞こえてきた。
 教科書とか、そういう感じじゃない音の正体が気になり視線を戻すと、臣くんはいつもバッグに入れているのど飴の銀紙を綺麗に開いているところだった。マスクをずらして静かに口へ放り込んだ臣くんを見てふと思いつき、頭の下にあった手を伸ばす。お調子者のクラスメイトみたいに企むように笑いながら。

「…なに」
「トリックオアトリート」
「……なまえちゃんもかよ」
「私ものど飴ちょうだい」
「ああ、いいけど」

 なんだそんなことかとでも言うようにのど飴をバッグから出した臣くんが大きな指の腹で銀紙に包まれたのど飴をちょこんとつまんで私の手のひらの上に持ってきた。

「……臣くん?」

 待てど暮らせど、飴はつままれたまま落ちてこない。視線を上げれば、頬杖をついた臣くんがなにか思い付いたように動きを止め、私を静かに見つめているから。

「……なまえちゃん」
「……?」
「いたずらだったら何されんの」
「え、っと……」

 臣くんがくれないという想定は全く無かったから、じりじりと臣くんから注がれる視線を感じながら考える。考えて、考えて、考えて。綺麗な髪を見て、思わず思い付いたそれにすでに笑いながら言う。

「臣くんの髪、結んじゃおうかな」
「……絶対嫌だ」

 それはもう本当に怪訝な表情のまま、私の手のひらにのど飴がひとつポトリと落ちて、何故か私がほっとしたように腕を引っ込めた。だって臣くん、なんか企んでたような気がしたから。
 お礼を言い、銀紙を剥がしてのど飴を口に入れると、カラカラと音が鳴る。甘くてスースーして舐めやすい。

「……やっぱり今度おうち行った時髪結んでいい?」

 ゆるゆると口元を緩めながらそう言うと、苦虫を噛んだように眉を潜めて、無理、と断固拒否をされる。ぱっと思い付いたとはいえ、ちょっとやってみたかったななんて考えたけどきっと絶対やらせてくれないのは目に見えていると思った。

「可愛くしてあげようと思ったのに」
「…今ので尚更嫌になったんだけど」
「平気だよ、もう諦めた」
「………あ、」

 その短い声と共に長い腕がこちらに伸びてきて、大きな手のひらが上を向く。そして、嫌な予感。

「ん、」
「…ん?」
「……トリックオアトリート」
「お、臣くん。今日おかし持ってないよ」
「じゃあ仕方ない」

 マスクの下まで透けて見えているような気がするほど、臣くんが何かをうっすら企んでいるのがわかって、ないない、とふるふる首を振った。さっきの自分を後悔しながら。
 ばくばくと心臓が騒ぐのが止まらなくて、臣くんの手から逃げるように両手で顔を隠すと、ぽつりと呟く臣くんの声が耳に入る。

「いたずらだな」

 怖いもの見たさでゆっくり手を下ろして隣を見れば、淡々とした瞳のなかに私が映り、心なしか楽しそうな臣くんがいる。いたずらって、なに?どんなの?聞きたくないけど聞きたいそれがぐるぐると頭の中でまわっていた。