冷蔵庫を開けて、中を漁る。うちに来る途中で何か買うのかと思い込んでたけど、臣くんが何か作ってなんて言い出したのはついさっきのことだった。ちなみに買い物はできていない。
作る行程でベタベタ触るものはなんとなく気が引けて、うーん、と唸りを上げる。何でもいいとは言われたけれど、なんでもいいが一番困る。そもそも普通の高校生の私にレパートリーなんて無いに等しい訳だし。
「……なに唸ってんの」
「……オムライスしか思い付かない」
冷蔵庫の中身を思い出せば、卵とミックスベジタブルとお母さんが親子丼用に切って冷凍していたらしい鶏肉が頭に残っているだけだった。木耳とか、竹の子とか。私にどうしろと。中華好きのお母さんにとってはなんてことないんだろうけど。
「オムライスじゃだめなの?」
「……え、いいの?」
「うん」
何食わぬ顔で受け入れた臣くんは、なんだか嬉しそうにしているようにも見えてほっとする。お母さんのいつも使っているエプロンを首からかけて紐を縛ると、よーく手を洗ってから卵と玉ねぎとミックスベジタブルと鶏肉と冷凍のごはんを出した。ごはんをレンジで温めて、出したばかりのまな板の前に立つと、臣くんがリビングに戻ることなくそこにいて、頭の上にクエスチョンマークがたくさん浮かんだ。
「……ん?」
「別に、見てるだけだから」
「じゃあ臣くんもやろうよ。エプロンは?いる?」
「……このままでいい」
調理台の真ん中に置いていたまな板を端に寄せると、ボウルを出して空いたスペースに置く。ここが臣くんの卵割るスペース。
手を洗う臣くん用に小走りで綺麗なタオルを洗面所の引き出しから持ってくると、臣くんが小さくお礼を言ってそれで手を拭いた。
「じゃあ、臣くんは卵を割ってください」
玉ねぎをみじん切りにするべく切り込みを入れながらそう言えば、臣くんは素直に頷いて卵を割る。この状況が不思議で仕方なくて、卵を割る臣くんをじーっと見ていると、なに、と怪訝な表情で言った臣くんにううんと首を振った。新婚みたいとか、そういうのは思わないけど、ただ単純にすごく幸せだなって思って。
私が必死でみじんぎりをし終える頃、隣で鶏肉を炒めはじめた臣くんが、料理男子としてテレビに出れそうなくらいに淡々と料理をする姿が様になっていて、かっこよすぎて思わず見とれてしまっていたら、木ベラの動きが止まる。
" 肉、火通ってきたけど "
静かな瞳がそう私を見る。たぶん。
みじん切りの玉ねぎとミックスベジタブルを入れたら臣くんがまた手を動かし始める。なんか一緒にとか言いつつ、わりと臣くんにやってもらえるような気がするけど、でもいいや。楽しいから。
ケチャップを煮詰めてから、温まったごはんを入れると、白いごはんが赤く染まっていく。ケチャップのいい匂いでキッチンはいっぱいだ。
「おいしそー!味見する?」
「一応、」
スプーンを2つ出し、出来上がったチキンライスを一口掬ってスプーンを渡そうとすると、臣くんの薄い唇が開き、自分の口へ運ばれるのを待っている。さすがにあーんなんて定番のことは言えずに口元にスプーンを持っていけば、ぱくりとチキンライスが口へ。そして、もぐもぐとよく噛み飲み込むのを待った。特にコメントはなくこくりと一回頷いた。多分、美味しいってことだと思う。私ももう1つのスプーンで味見をして……すごい美味しい。早くオムライスにしたい。臣くんが炒めてくれたという付加価値もあってかすごく美味しく感じる。
「臣くん!おいしい!」
「……ケチャップついてる」
伸びてきた臣くんの親指が私の唇の端を触り、そのまま手を洗いながら、子供かよ、と面白がるように静かに臣くんは言う。もちろん、それにつられて私も笑う。恥ずかしがるのも忘れて。
▼
「できた!ふわとろたまご!こっちが臣くんね!」
「どっちでもいいよ、俺は。焦げてるわけじゃないし」
「ううん。だめ。成功した方が臣くんね」
言うまでもなく一回目のたまごは成功とは言えなくて、ちょっとボロボロ。でも、臣くんが言ってくれたように完全に失敗したって程じゃない。
「持ってくよ」
「うん、ありがと」
ささっとフライパンやボウルを洗い、タオル掛けにかかっているタオルで手を拭いてスプーンを出した。
向かい合ってダイニングテーブルに座る。私の定位置に臣くんが座り、私はその向かい。
臣くんがうちのダイニングテーブルでごはんを食べる日がくるなんて、ましてや一緒にオムライスを作るなんて誰が想像できるんだろう。
もしかしたら、こういう機会がまたあるかな。そうだとしたら、もう少し料理を覚えておきたいな。
あと、さっき思ったのは、訂正しなきゃ。やっぱりちょっと、新婚さんみたいな気分な気がしてきたから。
「いただきます」
「……いただきます」
手を合わせてスプーンを手に持ってから、臣くんのスプーンの動く先をじーっと見ている。美味しいって、言ってもらえるかなって。そわそわと期待をして。
3万打いちゃいちゃリクエストより