自分のことではないと言うのに、こんなに嬉しいと思えるなんて本当に幸せだと思う。友達が大阪の人と遠距離恋愛の末に結婚をした。式は大阪ということもあって、私はもちろん喜んで参加に丸をつけて招待状を返送した。

 美容院に行くことも考えたけれど、背伸びをして買ったドレスが財布の紐を固くして、今回は素敵な髪型の動画を何度も繰り返し見て練習をした上で自分でやってみることにした。髪型の方は1時間も洗面台に張り付いただけあって自分でやったにしてはなかなか良い感じじゃないかと思う………やっぱり、ばっちりだと思う。

 楽しみだなぁ、そう私が言ったのは1時間ちょっと前のことだ。臣くんがなんだかむっとして私から視線を外してからテレビばっかり見ている。私は後ろで買ったばかりのドレスを着て懸命にアップスタイルをつくったというのに。努力の成果を見せるべく臣くんの元へ行き、いつもはかじりつきもしないテレビに向ける視界の中にひょっこり入る。


かわいいとか、きれいとか、そういうの言われなくたって、大好きな人には一番に見てもらいたいと思うものだと思う。急に臣くんの顔を覗き込む私を黒目をゆっくりとゆらゆらさせながら見た後、臣くんはさっきよりも不機嫌になった様子。後れ毛が嫌なんだろうか、これが可愛いポイントなんだけどな。それともメイクが濃いんだろうか。たしかにドレスに合わせていつもよりも若干濃くはしているけど。

「……なまえちゃん」

 いつもなら返事をするところだけど、何を言われるのか何を指摘されるのか、今私はもしかしたら難しい顔をしているかもしれない。臣くんが指を指して、指摘するような口調で言う。

「その上にはなんか羽織るよな?」
「この時期の羽織ものは早いって」
「……鎖骨見えてるし」
「でも、みんなこんなもんだと思うよ」
「膝、ちょっと見えてる」

 もはやソファの背もたれから腕をだらりと垂らして私を全身チェックする臣くんの言う膝をのあたり見れば、ちらちらと見えかくれするくらい。許容範囲だよ。だって店員さんといっぱい相談したもんね。

「全体的にみんなより隠れている方だと思う……けど」
「……ふーん」

 納得いかない様子の臣くんが私の髪型を見て、なんでそんなに頑張ってんの、とつまんなそうに言った。臣くんも行きたかったんだろうか。聞くまでもなく行かないって即答するのはわかってるけど。一言も褒めてくれなくてもいいけど、本当に貶されるとは夢にも思わなかった。でも、なんか違うんだよね、貶すっていうか。なんか、注意?みたいな?生徒指導、的な?そういえば、相変わらず鬼のように厳しいんだろうか、高校の生徒指導の先生は。

「……臣くんはなんでそんな不機嫌なの?」
「あー……」
「気になるじゃん、このままじゃ行けないよ」
「……ああ、その手があったか」

 脅し文句で言ったつもりだったのに。それはさすがになって、言われると思ったのに。えっ、と固まって困りながら臣くんをみると、100%に本気な表情はしていないものの、100%冗談の表情はしていなかった。どんなに付き合いが長くたって、難しいものは難しい。だって、臣くんだもの。ただひとつわかっていることは、私は臣くんに嫌われたことはない気がする、って自信を持っていることだ。私の体感というか、さじ加減なのだけど、私はそう思ってる。私だって臣くんを嫌だと思ったことは一度もないし。大好きは更新されていくし。

「行くの、なまえちゃん」
「うん。行くよ」
「ふーん……わざわざ可愛くして、男がうじゃうじゃ居るとこにか」

 あ。そういうことですか。なんだ、ようやくわかった。むっとする臣くんの表情につい頬をゆるゆるさせると、まだセットしていない臣くんの髪をわしゃわしゃと撫でたら、もちろん怪訝な顔はしているけれど、理由がわかっちゃえば私にとってその顔はその瞬間からご褒美になる。さらりと可愛いって言ってくれたのがじわじわとうれしくなっていく間に、大きな手が私の手を掴み絡めずに軽く手を重ねた。

「臣くん」
「……なに」
「お土産買ってくるね」
「……いらない」

 途中の駅ナカに売ってる梅干しが美味しいって教えてもらったから買って帰ろうかと思ったけれど、すっぱりと断られる。でもなんか、突っぱねる感じじゃない。少し考えてから言ったすごく柔らかいものだった。

「寄り道禁止。終わったらすぐ帰って」

 わかった、と頷く私はきっと恥ずかしいくらいに笑っていて、臣くんは少しだけ不機嫌が治まってきていた。時計を見たら出発予定時刻までまだ10分ほどあったけれど、このまま臣くんの手に触れていたら絆されてしまいそうで。

「もう行かなきゃ」

 玄関でヒールを履いて振り返ると、壁にもたれた臣くんが難しい顔で言った。ほんとに行くのって。思わず笑って、手に持った小さなバッグを開けて何度目かの中身を確認する。うん、忘れ物なし。

「では、行ってきます」
「……気をつけろよ、色々と」
「うん」

 ドアを開けて外に出た瞬間、暖かい風がやわらかく吹いて思った。やっぱり、今日はこのドレス1枚がちょうどいいな。


ネタBOX / 友達の結婚式にいく彼女をやきもちで困らせるBJ佐久早聖臣