「なまえちゃん!!!いつから佐久早くんと付き合ってたの!?」
いつもと違う。なんとなく今日は見られている気がする。その理由が判明したのは、さっき佐久早くんとそのまま校門をすぎ、そのままの流れで一緒に教室に入ったあと、まだ朝のHRがはじまる前だ。
隣のクラスの友達が教室のドアから顔を出して、ちょいちょいと手招きで私を呼んだ。廊下に出てみるとおはようよりも先にでたのがそれだった。
「えっ」
「なんか今日の朝早くに相合い傘してたの見たってクラスの子から聞いたよ!付き合ってるんじゃないかって噂になってたから飛んできちゃった」
「違う違う!傘には入れてもらったけど、でも、付き合ってないよ」
「え!じゃあ良い感じなの?そういうこと?」
「う〜〜〜ん……まって。ニヤニヤするのやめて」
「かわいー!なにその返事!すごい気になるけどこれから体育とか!絶対後で聞かせてね!」
やけにテンションが高くなっている彼女の背中はすぐに消えた。お昼時間は報告会になりそうだなぁ。なんて言おう。相合い傘なんて、端から見れば確かにそうだと思うのもわからなくもない。
そう考えていると、その先から古森くんがやって来て私を見るなりなにか思い出したようにニコニコした顔をする。
「みょうじ、おはよ!」
「おはよ!話すの久しぶりだね。佐久早くんならいるよー」
「ありがと。でもみょうじに聞きたいこともあるんだった!ちょっとこっちこっち」
去年は同じクラスだった古森くん。なんでか話してると自分が明るくなっていくのがわかる。
窓側に呼ばれ、教室の中をちらっと覗いてから面白いものでも見つけたような顔でほんの少し距離をつめられる。
「バレー部の奴から聞いたんだけど。佐久早の傘、入れてもらったってほんと?」
「うん、入れてもらったけど……」
「みょうじ、すごいなー!どおりで、」
「……おい。古森」
この噂は一体どこまで広まってるのか、なんて考えていると、大きな影が寄ってきて。私と古森くんの間に両手を突っ込み、古森くんを少し離した影の正体は佐久早くんだった。心なしか不機嫌なような。
「俺に用あるんだろ」
「えーまだみょうじと話してるのに」
「うるさい」
ぴしゃりと放った声と同時に佐久早くんは私を見て、煮え切らない表情をする。固まっている私は上手く汲み取れない気持ちをわかりたくてじーっと顔を見ても、なにもわからない。だけど、じーっと堂々と見れるくらいには怖いもの知らずになっている。
「みょうじ、佐久早のこと見すぎじゃない?」
「あっ、ごめん。なんか…怒ってるのかなーって思って」
「……別に」
ぽかんとしながら佐久早くんと私のやり取りを見ていた古森くんは、やっぱなー!なんて楽しそうに言いながらお腹を抱えてる。笑いが収まらないまま、ささっと部活の用件を佐久早くんに伝えて、手をひらひらさせて去っていく古森くんに手を振り返すと、佐久早くんが私をじっとりと見る。視線を残していた古森くんは遠くでまた吹き出して笑っていた。
「……古森に、何て言われた?」
「朝、佐久早くんの傘に入れてもらったの?って聞かれたよ。バレー部の人が見てたんだって。あ、他のクラスの子も知ってるみたいなんだけど…」
「……困る?」
「ううん……困ら、ない」
ぶんぶんと横に頭を振ると、ほんの少し眉を下げていた佐久早くんは私の返事にうっすら目を細める。その表情は、ずるい。
どうしたらいいのかわからない雰囲気に戸惑っていると、助け船のようにチャイムが鳴って。担任の先生が出席簿を抱えてドアの前まできていた。そして私たちを見てわりと大きめの声で言うのだ。
「おーい。イチャついてないで教室入れー」