きらきら、ちかちか


 どことなく虎くんの様子がおかしい。何に違和感を覚えるのか自分でもよくわからないけれど、やっぱりどこかおかしい。ガチガチで手を繋いでいた最初の頃の虎くんとは違ってすっかり力を抜いているけれど、抜きすぎというか。何かを探してる感じというか。

 あれ美味しそうだね、なんて呟くと、食べる?と期待の眼差しで見てきたり、お花屋さんに飾られた小さなブーケを見ていたら、また期待の眼差しで、花好きなの?と聞いてきたり。ただ私のことを知ろうとしてくれると素直に思えないのが良くないのかもしれないとは思いつつ、ちょっとそわそわする虎くんはやっぱりちょっと様子がおかしい。

「今日はなんか買うんだっけ?欲しいものあんの?」
「……ないよ。今日は見るだけ」
「え!そうなの!?」

 本当は手鏡が欲しかった。大切にしていたけれど、この間落として割れてしまったから。でもそれは内緒。自分でもわからないけど、なんだか言いたくなくなってしまった。
 ぶらぶら歩いていると、気づけばこの駅ビルで買い物するならと目星をつけていた雑貨屋さんの前。

「このお店、ちょっと見てもいい?」
「……!いいよ!」

 少し迷ったけど、虎くんの了解をとって店内へ。欲しいものがないとちっぽけな嘘をついたのを今さらになって後悔しながら。持ち歩いている化粧ポーチに入るくらいの大きさの鏡がいいな。後ろでは虎くんが私の手元や目線を伺って、慌ただしくしている。せっかくのデートなのに、今日は全然楽しくない。

 これ可愛い。綺麗な模様の入った鏡を両手で包んでじっくり見ていると、後ろの彼がさっきよりもそわそわしだし、後ろから隣に移動してきた。本当に、どうしちゃったんだろう私の彼は。
 展示品を飾り直して新品の入った箱をレジに持ってこうとすると、あたふたする虎くんの袖口をつまんでレジに連れていった。支払いをしてショッパーを受け取ると、エレベーター前のソファまでぐいぐい後ろから背中を押して座らせた。そして私も虎くんの隣へ。

「……変」
「ん!?」
「今日の虎くんはいつもの虎くんじゃない。誰ですか」
「……ボクは山本猛虎、です、けど」
「私の彼氏はボクなんて言いません」
「な、なんで敬語……?」
「……」
「じ、実は」
「……」
「とある人から、アドバイスもらって……その、かっこいいプレゼントの買い方の」

 おかしな虎くんがずっと何を考えてたのかと思えば、観念した口から予想だにしない答えが返ってきた。落胆ムードの虎くんの思うことを今のところほとんど理解できていないけど、とりあえず確実にわかることは私に何かを買ってくれようとした、のかな。

「それは……な、なんで?」
「水族館でぬいぐるみ買った時、俺めっちゃダサかったじゃん」
「……そうだったっけ?」
「思わなかった?」
「うん。嬉しかったよ、すごく」
「……マジ?」
「虎くんが買いたいって素直に言ってくれて、すっごく幸せだったよ?」
「みょうじさん……!」

 何も不安になることなんてない。嬉しいに決まってるのに。私のベッドの上で、あのイルカが毎日寛いでいるのに。
 堪えるような表情の虎くんが、大切にそうに私の手を取ってぎゅうううっと両手で包む。どことなくおかしかった雰囲気が少しずつ元に戻っていく。すっかり無くなっていたきらきらは、じわじわと復活して、すっかり元通り。
 行動の意味は、意外なきっかけだった。そして知った。私にとっては素敵な思い出も、虎くんにとっては苦い思い出なこともあるのだと。あともっと大切なことに気付けた。
 
「……虎くん。今わかった」
「な、なに?」
「あのね。なんか……かっこつけない虎くんが、私にとって一番かっこいいみたい」
「はっ…!そっ、え……みょうじさんは、怒っててもかわいい、けど。笑ってる方が、何倍もかわいいです…!」
「……」
「恥ずっ!」
「……もう一回言ってほしいな。名前で」

 間の悪いタイミングで開いたエレベーターからぞろぞろ出てきた人達が虎くんと私をチラ見して通り過ぎたのは、きっとイチャイチャカップルに見えたからかも。だけどそれは、あながち間違っていないかもしれない。

「わ、笑ってる顔が一番かわいいよ、なまえ…さん…ちゃん?」
「あはは、迷ってる」
「イヤ!だって、よ、呼び捨てはさすがに」
「だめなの?」
「……頑張って。なまえ、って呼んでみる」

 包まれた手があったかい。頭の端っこに残る、かっこいいプレゼントの買い方。それは少し気になるけれど、そんなのなくなって充分。いつか、虎くんに聞いてみよう。

 いつだって。出会いは思いがけないところにあることもある。特別な人は、きっとすぐにわかる。
 だって。まぶしいほどにきらきら、ちかちか。そう見えるはずだもの。