ひんやりとしたスマートフォン。発信音が耳から入り、脳へ行く。今日あったこと、今日はどう伝えようか。

 簡単には会えない距離がもどかしいと思うことは最初の頃よりなくなったけれど、恋しい気持ちはいつまでも胸にある。

「はい」
「臣くん、」
「うん」
「今何してた?ストレッチ?」

 膝を抱いて、裾から覗く足の爪先を見て。伸びた髪の毛先が視界におさまると、少し前に思いきって切った髪もギリギリ結べるようになったな、なんて思って。

「どうしたの」
「なにもないよ。髪伸びたなって、ぼーっと」

 少しだけ沈黙が起きる。私が髪を切ると言っても、臣くんは口を出さなかった。髪を切っても、褒めちぎるわけでも、けなすわけでもなく。思ったより切ってた、そう一言だけ髪を切ったときに言われて。可笑しそうにほんの少しだけ笑ったような気がした。

 時々電話をして、記憶に残らないような話をする。だらだら話すようなタイプではないはずなのに、臣くんは私の話を聞いて、時々相づちをくれた。それはきっと、この距離のおかげだ。

「結べるようになった?」
「ん?髪?」
「……前に言ってたよな。結べないと邪魔だって」

 記憶に残らないような会話は、意図せぬうちに臣くんの記憶に刻まれて、時々私はそれを知る。

「ギリギリ結べるよ」
「そっか」

 肩口をくすぐる髪に首をすくめると、臣くんの指先を思い出す。すぐに思い出せる大きな指の腹が次に私の髪を撫でるとき、どのくらい伸びているのか、楽しみになりながら。

天の川 × サイレント / 佐久早聖臣

モドル