どんなに好きなことを仕事にしても、やっぱり最初は慣れないことばかりで大変なのだと思う。鉄朗のここまで疲れた表情を見るのは初めてだ。
自分のことみたいに胸が苦しくなったけれど、それを言ったら鉄朗はきっと平気だと無理して笑うのは目に見えている。私が辛いとき、何をしてくれたら癒されるかな。元気になれるかな。私は鉄朗に何をしてあげれるのかな。
答えが出る前から、なんでか鉄朗に触れたくて仕方がなかった。少しだけあった距離を小さな一歩で詰め、黙ってぎゅう〜っと抱き付いた。力一杯、お疲れさまを伝えるように。
「あのー、なまえちゃん?俺らね、今地味〜に目立ってますけど」
「……今日もよく頑張ったね、鉄朗」
つぼみは開き、春風が心地よく吹いて。降り注ぐ心地良い言葉に聞こえないふりをすれば、安堵したような溜め息と共に長い腕にすっぽりと包まれた。
「……正直、今日は疲れた」
「うん。顔に書いてあるよ」
広い背中を小さく撫でて鉄朗の顔を見上げれば、いたずらな笑みが届き、心なしか元気になった鉄朗が私の頭を撫で、今なら猫のようにゴロゴロと喉を鳴らせそうな気がした。
「早く行こーぜ、なまえんち」
甘く柔い鉄朗の声に頷けば、鉄朗と私はそのままの足で電車に乗った。あたたかなシートに沈み、うとうとする姿はあまりに無防備だったし、やっぱり相当疲れているんだと思う。
お腹を満たし、ワイシャツのネクタイを緩めた鉄朗に手招きをされれば、喜んで近づく。先ほど人目もはばからずに抱き付いた私は、何も怖くなくなっていた。鉄朗の求めることはしたいと思うし、支えてもらうばかりではなく私も鉄朗を支えたいと思う。
「鉄朗が少し元気になってよかった」
「マジ?俺そんなわかりやすかったかね〜?」
「……わかりやすくはないんじゃない?私はわかる、それだけだよ」
刻んできた思い出を浮かべて。いつもあなたを浮かべて。そうしたらすぐ、手に取るようにわかるよ。
あなたと握手 × 黒尾鉄朗
モドル