女子ウケがいい、というのはモテるとかそういうんじゃない。わかってるけど、わかっててもやきもきして。

「覚はわかってないよ」
「エッ。ご機嫌斜めなのオレのせいだったの?」

むっとして覚を見た瞬間、ほのかに鼻をかすめた香水でわかる。隣のクラスの目鼻立ちのくっきりした綺麗な子が来たこと。

「天童、バイバーイ」
「バイバーイ」

やっぱり覚はわかってないよ。覚に近付く全員が全員、友情としての気持ちではないってこと。ひらひらと振るその長い指や、とらえ所のない笑顔にあの子が見とれているかもしれないこと。なのに、仲良さげに返事しちゃってさ。
せっかくの放課後デートのスタートがこんなにも空気が重いのは申し訳ないとは思うけれど、それでも。

「綺麗だよね、あの子」
「うーん……あんまり気にしてなかったヨ」
「挨拶する仲になってるのに?」
「あらあらあら?ヤキモチ?珍し〜」

背中を丸め、顔を覗き込まれ、逃げるように逸らせばまた逃げた先に覚の顔。この反応の早さ、さすが王者白鳥沢のスタメンとして堂々と戦っているだけある。いや、褒めている場合じゃない。

廊下から階段へ。ゆっくりと下れば広くゆるやかなおうとつのある背中が目の前にあり、それだけで心臓がぎゅうってなった。

「覚」

踊り場に足をついたのを見て、まわりに誰もいないのを確認して、名前を呼んだ。階段一段に力を借り、背伸びをしても追い付かない覚の顔。振り向いた覚はいつも通りに察しが良い。真ん丸の目が細められ、少しだけ身を屈め、唇を一瞬だけ重ねれば、さっきまであったズキズキとした見えない傷口の痛みはすーっと大丈夫になった。

「うん、なんか直ったみたい。機嫌」
「なまえちゃんそれ、正直でイイネ」

無用な自己申告をしながらニヒルに上がる口角を追い越して先を歩けば、廊下に出る時にはもう手を掬われて、他のことなんて気にも留めなくなった。

ずるいんだよ、この男は。何度ヤキモチをやいても、こうして手を掬われれば、いつだって私は嬉しくなるって、わかってるんだよきっと、天童覚という男は。

傷跡 × 天童覚

モドル