驚くだろう。追いかけ、手を伸ばせずにいた背中にいつでも触れられるようになるなんて。前の私なら思いもしなかっただろう。
 今は触れなければ不自然なほど大地と私は近くに居れる関係で、目を細めて笑い、大きな手のひらが私を呼び、手を伸ばせばいとも簡単に包んでもらえるのだから。

 桜満開のニュースの記憶は数日前。やって来た近所の公園の大きな桜の木の花びらは着実に散り始めていた。
それでもあんまり寂しくなかったのは、来年も大地が側にいてくれるという安心があったからだと思う。
 少し残念そうな顔をした大地と視線が絡んだけれど、自然に笑っていつも通りの柔らかな空気が流れる。

「満開は完全に過ぎたな」
「でもまだ残ってるよ、ほらいっぱい」
「残ってる、か」

 仕方ないとわかっていても、負い目を感じているのはなんとなくわかる。休みの日も、何があるかわからないから気軽に県を跨いだりもできない。それでも一緒にいることを選んだのは私で、一緒に居てほしいと言ってくれたのは大地だ。だから負い目を感じる必要なんてなにひとつない。

 彼以上に誇りや正義、愛に満ちた人そうそういないだろう。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、大地が隣に居てくれるのならそれだけでいい。好きでいてくれるのならそれでいい。

「でも、来年も桜は咲くでしょ」
「そうだな。今年だけじゃないか。まだチャンスは山ほどあるわけだ」

 まっすぐな瞳は、端の茶色くなった桜に紛れる緑を見ている。ベンチに座ってゆっくりと散る桜を眺めれば、悪くない、そう思った。

 繋いだ手の指に心地良さそうにフィットする指輪をこっそり触り、私の左手薬指に馴染んだ指輪を親指でそっと確かめれば、ひんやりとした指輪とは裏腹にじんわりと胸のあたりが温かくなった。

桜の時 × 澤村大地

モドル