教科書で顔を覆う私を友達は面白そうに見る。

「彼氏なんだから声かけたらいいのに」
「そんな簡単じゃないんだってば〜〜〜」

 松川先輩と廊下ですれ違って目が合ったというのに、恥ずかしくなって顔を下げてしまった。この間付き合い出したばかりだからか、うまく笑うことも出来ないほど、先輩を見るたびに恋に落ちている。高校生に見えない落ち着きようだとか、醸し出す一筋縄ではいかない雰囲気とか、駄々漏れの色気だとか。とにかくかっこいいんだ。

『今日の昼、一緒に食べない?』

 届いたばかりのメールに戸惑う私を見た友達が画面を覗いて言う。早く返事しなよって。本当に、本当にそうなのだけど。そう簡単じゃないんだって。どうにかした返事も、正解なのか定かはわからなかった。


 ここにくるのは2回目かな。先輩と私だけの内緒の場所。スカートを介してもおしりはひんやりと冷たい。のんびりと眉を下げた先輩が「寒くない?」と絶妙なところで聞いてくれたものの、私はそれに頷くしかできなかった。

「そういえばさっき、なんですぐ目逸らしたの?」
「……恥ずかしくなっちゃいました」
「付き合ってるのに?」

 不思議そうな表情の先輩は私の口が動くのを見届け、目を見る。膝の上で組んだ手に片方の頬を預ければ、気分は甘く大人なビターチョコレートを味わうようだ。

 髪に手を伸ばし、表情を確かめながら触れるとすぐに手首を掴まれれば心臓がドクドク音を立て、指先へとスライドしていった。先輩の唇の端が上がり、私の真似をするように膝の上に乗せた長い腕に大人のようなすっきりとした頬がぴたりとくっつくのを見届ける。

「お昼、また誘ってほしいです」

 一言だけ勇気をだしたら、先輩の黒目がくらりと揺れた。直前に塗ったリップは落ちているかもしれない。ゆっくりと背景は白くなって、その瞬間だけ世界はふたりだけみたいに思えた。
 視界の端ですらりとした腕が近付く間に、気付けば目の前にあった先輩の瞳が予告をする。言葉はなく、スローモーションに、密やかに。

milk × 松川一静

モドル