交差する惑星たち
力強い瞳を瞼が隠し、抱き寄せられたままの腕はだらりと力が抜けている。大きな手のひらが私の背中にゆったりとくっつき、なかなか起きそうにない瞳を見る。
昨晩のお楽しみはキスをしてちょっとだけいちゃいちゃして、緩んだ表情で笑って。たったそれだけだった。いい大人ではあるけれど、それだけでも満たされるのだから愛のようなものがある事を示しているような、そんな気がする。ここが繋心くんの独り暮らしの家だったら、話は違ったかもしれないけれど。
普段はカチューシャで上げている長い髪が垂れて、透けるように眉や鼻先が見える。体を重ねなくたって、愛は育つんだとふと思うと、ただただ見つめる寝顔がどんどん愛しさを増していく。
『俺、お前のこと好きだわ』
刻み込んだ声や、息遣いや、大きな手。まっすぐな瞳がいつもよりも何倍も柔らかくて、あったたかかったことはこれからずっと記憶に残したいと思う。
好きなことをして、ハッピーに生きよう。その時、その瞬間、大好きだと思える人のそばで。ひとりで居ることになんの抵抗もないけれど私はやっぱりわがままで、繋心くんという存在が近くにいるのなら近くに寄りたいと思う。
布団の中は当たり前にあたたかくて抜け出したくなくなるけれど、繋心くんが隣にいればその気持ちは尚のこと大きくなっていった。ふたりであたためた布団が冷えるのは、ちょっとだけ寂しいかもなんて普段は思わないようなことを思って照れくさくなる。
今日は夕方からバイトがあるから、一回家に帰って準備をしないとなぁ。
まだまだ時間は沢山あるけれど、そんなのあっという間に過ぎてしまうんだと思う。抱き締めたり、手を繋いだり、キスをしたり。そんな相手がいるってすごく幸せなことだ。いつまでも気持ちよく寝ていそうな表情はずっと崩れなくて、起こすでもなく見つめるのはとっても贅沢な時間だと思う。夜景の綺麗なレストランでシャンパンの入ったグラスを鳴らすよりも、もっと。
「朝ごはんできてるよー!」
なんかデジャヴ。階段の下から響いた声が耳に入ると、もし繋心くんと結婚してこの家に住むことになったら毎日こんな感じになるんだろうか。それってもしかして、最高なんじゃないかな。
背中にゆったりと触れていた手がぴったりとくっつくと、向かい合って少しあった距離が一瞬にして縮まって、一旦外してた視線を繋心くんに戻せば朝日を眩しそうに睨みながら私を抱き寄せていた。
「……はよ」
「おはよ」
掠れた声を耳にすれば、甘酸っぱい感情がむくむくと生まれる。表情とは裏腹に、行動はなんだか甘えん坊と男前の中間みたいな、美味しいとこ取りみたいなもので、可笑しくて口元が綻んでいるかもしれない。
「困ったなぁ」
「ん」
「布団から出たくない。けど、朝ごはんも食べたい」
「……わかるが同時に叶えるのは無理だろ」
「やっぱり?」
「布団から出るのと飯が冷めるの、どっちがマシ?」
「えっ、ご飯が冷めるのは悲しい」
「じゃあ起きるしかないな」
うまく思考を変換するのがうまいな、繋心くんって。さすがコーチしてるだけある。
先に起きた繋心くんが布団から出て大きく伸びをすると、そのまま振り返って私を見下ろし、起きないのかよ、と笑う。
「うん、でも離れがたい」
「……布団から?」
「うん」
体を屈めた繋心くんが呆れるように私の両手を掴んで引っ張ると、引力に導かれるように布団より魅力的な方へと体が引き寄せられるけれど、これは仕方ないことだと思った。だって、繋心くんに手をさしのべられたら掴むに決まってるでしょ。
「朝ごはん、何かなぁ」
「白米と味噌汁と、あとなんかじゃね」
「ふりかけでもいいな、ほら定番のやつ」
「ふりかけってうまいよな」
「うん、うまい」
階段をおりながらそんな話をしていると、やっと起きてきたと呟いた繋心くんのお母さんにあいさつをしたのだけど、後ろに立つ繋心くんと私を何往復か見て可笑しそうに「あんたたち、なんか似てるわね」と言ったものだから、振り返って繋心くんを見れば、どこがと言わんばかりの表情をしている。
「なまえちゃん、よく眠れた?」
「熟睡しちゃいました」
「じゃあ良かったわ。いつでも気軽に泊まりにきてくれていいからね」
「えっ!ほんと?いいんですか?」
「良いに決まってるじゃない」
よそってくれたご飯を受け取り、味噌汁を食卓に運ぶとテーブルには2人分の食事が並んでいた。先に手を合わせた繋心くんに「2人で食べると新婚みたいだね」とにいっと笑って言えば目を真ん丸にした繋心くんの耳のはしっこがみるみる赤くなっていき、追い討ちをかけるように繋心くんのお母さんは私の後ろで嬉々とした様子で口にした、なまえちゃんならいつでも大歓迎だから、って。