あの瞬間はいつでも青
『俺は最近〜〜〜〜好きな人ができた〜〜〜!』
だーれー!という定番の返しに、女子生徒の名前を叫んだ少年。そして、待ってましたとカメラが向けられれば、顔を赤らめる女の子に少年は愛を叫んだ。これは私たちの話ではなくて、テレビの向こうの青き学生たちの話だ。
そろそろ漂白しないとなぁ。手に持っているお揃いのマグカップの片割れを見て、そう思った。あっという間に過ぎていく毎日は、この茶しぶのように蓄積されていくけれど、今日も侑くんの隣にいれることは楽しくて嬉しい。
「主張観んの久しぶりや」
「番組終わったのってうちらが卒業してすぐくらいやっけ」
「あ〜、そんくらい」
それにしたって。アイドルって、なんで老けないんだろうか。画面にうつるW6は大きく手を叩いて足をじたばたさせながら、大きな口をあけて笑っている姿は全く記憶と変わらない。
「なーなまえ」
「んー?」
「W6、全然変わってへんな」
「侑くんも思った?もうおじさんでもおかしくない年齢とかびっくりなんやけど」
「せやな」
「アイドルパワーちゃう?」
「あはは!あるん?そんなん」
「私はあると思うなぁ。ジョニーズみんな若く見えるし。侑くんも近しいもの持ってるんちゃうかな」
変や。おかしい。私はそこそこ大人になったというのに。W6のメンバーだって等しく時は経っているはずなのに。
年々かっこよくなっている侑くんも、私からしたらW6と同じようなものだろう。
「なーんか、色々あったん思い出すな〜。高校ん時」
「……楽しかったけど。大変やったのは忘れられへんと思う」
カップをテーブルに置き、頬杖をついて侑くんを見れば、大きな黒目が横に流れて、ゆらゆらと揺れた。抱えるクッションに顔を埋めた瞬間、きれいな金髪の毛先が少しだけ楽しそうに動く。
「主張の後なんかめっちゃ冷やかされたし、ファンの子らの視線もすごかったで」
「……そんなこともあったかもしれへんけども」
慣れっこだった侑くんと、そんな経験をしたことがなかった私と。今は私も慣れっこだけど、当時は本当に大変だった。それからしばらくして、少しずつ一緒に歩いても気にしないでも平気になったっけ。とはいえ、ここまで長い付き合いになってみて思う、ある意味いい練習になったんじゃないかって。
「……そういえばなまえあん時、ダンス部の女子にDVDもらってへんかった?」
「もらったもらった!冷やかしでニヤニヤしながら渡されたやつな」
「まだDVDあんの?」
「あるよ。え、見たい?」
「……無理、ハズイ。見たない」
それに、お互いの親にもそっこーで侑くんと付き合ったのバレて。今も侑くんは「あん時の彼女とどうなったん?」とか聞かれるって言ってたっけ。
『ごめんなさーーーい!!!』
自然と私たちの思い出を浮かべながらテレビを見ていたら、それは見事にはっきりと断りをいれた女子生徒に「あ〜!」とW6がのけ反った。あと、侑くんも。クッションに埋めていた顔を天に向け、あかんか〜!なんて言った。自分のことみたいに。
「でも、これきっかけで後々付き合う可能性もあるで」
「こっちは一世一代のチャンスやねん」
「……それはわかるけど。こっちも結構パニックやから」
「……まじで?」
「言うてなかったっけ」
「初耳やし。なんや吊り橋効果みたいな告白やな。そう思うと」
まって、と数秒経って私の顔を覗き込んだ侑くんは、難しい顔をしながらまた数秒考えて。なんだか寂しそうに言う。なまえは勢いで俺と付き合うたってこと、と。
「侑くん、アホやね」
「アッ……」
「私もちゃんと、好きやったで。そりゃ雲の上の存在に思えて諦めたくなったりもしたし、釣り合わへんなとか。なんで私なんやろって思ったり。それでもやっぱり好きやったから、付き合ったの。だから、そんなんちゃうよ」
「なっ……あ〜〜〜もう、アカン。初出し情報多すぎやて」
ひとしきり頭を抱え、侑くんは指の隙間からこちらを覗き見て。色々と言いたげな表現で伸ばされた手が私の頬を撫でた。
「……それに、今言うとか。タイミングずるいわ」
かさついた瞳はまっすぐ私を見たまま。柔らかな口調が指を伝ってこちらに響いてきているような気がする。
もしも侑くんと付き合っていなかったら、私はあの頃よりも強くなれていなかった。世界はこれほど眩しく明るいものになっていなかった。
ひどく熱っぽい視線に、初めてのキスを思い出す。下駄箱の片隅に隠れたあの時みたいに、両頬を包んだ手はあの頃よりも強くなったけれど、思い出す記憶の色はいつだって。
キーワード : 青春の呪いの侑、20代、同棲、高校生の主張を見て懐かしむ
モドル