わたしのルミエール
この恋にきっかけなんてなかった。好きになった瞬間も、好きだと自覚した瞬間も、ちゃんとしたものはなかったけれど。気づけばずっと、私は飯綱のことが好きで好きで堪らなかった。
いつか遠くに行ってしまうかもしれないその背中を追いかけることを、目で追うことを。それだけを自分に許して過ごした高校生活はあっという間に終わりを目前にしている。
友達を越えようとすることは、友達ではなくなるということだ。元に戻るなんて簡単なことじゃない。当たって砕けろ、なんてセリフはこれから砕けるわけじゃないから言えるのだと私は思う。
3年に上がり、飯綱はバレー部の主将になった。主将を任されるということはもちろんすごい。だけど、飯綱が主将をつとめるここ、井闥山学院のバレーボール部は全国大会常連の強豪校なのだ。故に、もっと。すごいのだ。
そんなの、内情を知らない私が考えただけでも大変なのは想像がつく。計り知れないプレッシャーに押し潰されそうになることとか、色んな感情を常に抱えてるんじゃないかとか。
私にとって期待よりも心配の方が大きいのは、バレー部よりも飯綱の方が心配だからかもしれない。飯綱にとっては、自分よりもバレー部の方が大事なのだと思うけど。私は、多分違う。
「部活、楽しい?」
「当たり前じゃん。なに急に」
ほら。今じゃないでしょ。嘘のない笑顔を見て、自分に言い聞かせる。どれだけ好きだと思っても、飯綱を好きな私なら。飯綱にちょうどいい時が来るまで待てるはずだって。
「みょうじは今日もバイト?」
「そ。明日もね」
「頑張るね〜」
「飯綱には負けるけどね」
「俺はバレーが好きだから部活やってるけど。みょうじは嫌なことも色々あるだろ。だから偉いと思うよ」
誰かと何かを比べることもしない。努力を惜しまないからこそ言えることだ。バレーにおいては違うのかもしれないけれど。
この学校中どれだけ探したって、飯綱よりも大人へ向かう階段の先を進む人はいないと思う。濁りのない瞳がためらいなく私に向いて、落ち着いたように笑う顔が視界に入れば、私はノートで口元を隠した。
「なに照れてんの」
「だって。カウンターくるなんて思わなかったし」
「みょうじはたまには素直に喜んでいいんだよ」
楽しそうに笑う飯綱の表情は、優しかった。好きは告白に直結しないし、思いは一時的に留まれるということを知ったのは、飯綱を好きになってからだった。
「春高予選、応援行くね」
「うーん……いいよ。東京選抜は」
「……全国行くし?」
「そ。意地でも行くから」
「主将が言うと説得力が違うね」
「俺っていうか。ウチは易々と負けないよ。強いから」
その自信は適当なものでも、単なる決めつけでもなんでもなく、今までの積み重ねからくるものだ。3年間、必死にやってきた姿を見てきたから。よく知ってる。
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照明は明るく、暑ささえ感じるほど。色んな高校の声援が響き、色とりどりの横断幕が視界に入ると、高まるような気持ちが身体中を駆け抜けた。しびれるようなこの気持ちを選手達は緊張を集中に変えているんだと思えば、本当に感心するばかりだ。
有言実行を果たすように、相手チームからじりじりと差をつけていくのを見て、すごいなぁ、と思う。こういうときに平凡な言葉しか出ない自分がもどかしいけれど、仕方ない。コートを駆ける飯綱を目で追い、恋焦がれるような気持ちになる。
やっぱり、今はバレーボールには勝てないかもしれない。例えば飯綱がこの先もバレーを続けてプロになっても、あの表情はコートの上でしか見れないような気がする。
眩しいほどの光に包まれたコートの中で幸せが長く続きますように。努力が報われますように。少しでも長く、願わくば最後まで、コートに立てますように。
私のことは、それからでいい。全力で楽しんで、全力で走り回って。思いっきりくしゃっと笑う飯綱の顔が好きだから。
キーワード : 片想い × 春高前 × 告白するかどうか悩む夢主の葛藤
モドル