いちばんかわいい
「それでは皆様、しばらくご歓談ください」
司会をつとめる式場のスタッフがそう言うと、淡く落ち着いた色の花で作られたブーケを持った新婦が友人のいるテーブルを見て笑い、新郎である成田の手をとんとんと触る。とうやらカメラを向けられたらしい。新郎新婦そろってピースサインをすると、旦那さん笑顔がかたいよ〜!なんて茶化されて、それが聞こえた周りの招待客はおかしそうに笑う。
「成田、緊張してますね」
「ほら同級生、ほぐしに行ってやれよ」
「あの辺もうちょっと落ち着いたら行きます」
澤村と縁下は、幸せな2人を見ながら運ばれてきた料理を食べ、そんな話をする。白いクロスのかかった丸いテーブルに6人、知った顔ぶれが集っている。
3年は澤村、菅原、東峰の3人。2年は田中、縁下、木下の3人だ。
デレデレな顔撮ってあとで成田に送ってやろ〜、とものすごく楽しそうに言った菅原に田中がノリノリで付いていき、俺も行く〜とテーブルに置いていたスマホを持った東峰が席を立つ。
「なんか。みんな変わってなくて安心したわ」
「そうですね。こうやって大勢で集まることも減りましたから余計にですよね」
「お。じゃあ、次大勢で集まるのは誰かの結婚式……あ、縁下とか?」
そう言った木下にニヤニヤしながらさされた指をつかんだ縁下が、じとっと目を細めて、人を指をささない、とむすっとしながら言うと木下がぎくっと眉をしかめ、それを見た澤村が笑った。
「縁下、結婚すんの?前に会った時彼女居ないって言ってたような」
「あの飲み、たしか去年でしたよね。あのあと出来たんですよ」
「え?まだ1年経ってないの?あんなラブラブなのに?」
「そうだよ。こないだ半年、過ぎたくらいか。ていうかお前あの時べろべろだったから大して覚えてないだろ」
「あはは!ラブラブか〜」
グラスワイン4杯目を飲み干した木下は、声を出して笑う澤村に視線を送り「大地さん、長いこと付き合ってる人いましたよね?」と言うと、一旦ソフトドリンクでも飲んどけ、と諭した縁下がドリンクメニューを渡した。
「俺も、そろそろかなとは思ってるよ」
本日の主役を父親のように見る澤村がそう呟くと、縁下は記憶を手繰り寄せた。みんなで集まることはないけれど、それぞれにちょこちょこ集まっては飲んでいるせいか、かいつまんだ話はなんとなくみんな知っている。もちろん、先輩である澤村のことも。
「……詳しく聞きたい?」
「えっ、聞かせてくれるんですか?」
特別な、といたずらに言った澤村は、思いの外のりのりな表情でグラスを傾け、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「彼女とは、旅行先で出会ったんだけど」
「あっ」
「……ん?」
「いや、風の噂では聞いてましたけど、本当だったんだなー、と」
「やっぱり聞いてたか」
「あー……、すいません」
「いいよ。向こうはひとり旅で、色々あって俺もひとり旅でさ。それで仲良くなって。あれやこれやありまして。彼女が宮城に来たのをきっかけに、ね」
「でも続いてるってことは、大地さんもラブラブ……それなのに俺は、」
「すみません、こいつ今めっちゃ彼女ほしいらしくて」
「木下〜!ちょっとこーい!」
どんよりしていた木下をテーブルからひっぺがした田中が成田夫婦の幸せ写真が飾られたコーナーへずるずる引きずり、無意識に傷をえぐろうとしているのを澤村と縁下は眺める。
「……行ったな」
「……行きましたね」
「それで、ラブラブな縁下はどんな始まりだったか聞いてない気がするんだよな、俺」
聞き覚えのあるウエディングソングが流れる会場で、タキシードを着た仲間とその奥さんを眺めながらお互いの恋人の話をするとは、あの頃は微塵も思っていないだろう。
顔には出ないものの、雰囲気もあってか少し酔っているらしい澤村は珍しくそんな質問をしたから、縁下は眉を下げて笑った。
「キャンプにはまってるのは言いましたっけ」
「うん、聞いた気がする」
「基本ソロで行くんですけど、たまたま隣のテントになったのが彼女で。俺もあれやこれやありまして。それからよく一緒にキャンプ行くようになりまして、付き合うことになった感じです」
「……キャンプかー!よくテレビでやってるし、流行ってんるだろ、今」
人の色恋を楽しく聞く澤村の発言に内心縁下は『大地さん本当に1つ上か』と思ったがそんなことは死んでも口に出せないので、ぎゅっと口を結んだ。
「大地〜!成田のデレ顔ゲットしたぞ〜!」
「良い顔してたなぁ、成田。もうちょっとしたら写真待ちなくなりそうだ」
「おかえりなさい」
「スガ。成田のことあんまり茶化すなよ、主役なんだから」
戻ってきた菅原と東峰は席につき、何の話?と聞く。澤村と縁下の話を聞き、穏やかな顔をした東峰に対し、菅原は見覚えのあるいたずらな顔で口を開いた。縁下の彼女、かわいい?どんなとこが好きなの?と。
今判明したが、菅原もなかなかにアルコールを摂取していたらしい。
「可愛いですよ。考えてること全部顔に出るところとか、子供みたいないたずらするところとか、すごく優しいところとか」
「……縁下がのろけてる」
ブレーキのききが悪くなっているのか、聞いてもいない好きなところまでマイペースに口にした縁下に、テーブルを囲む面々はぽかんと口を開けたあと、あまりの幸せそうな縁下の顔につられるようにへらりと笑った。
「それなら、うちの彼女もびっくりするぐらい可愛いよ」
いい大人にしては子供っぽい空気が流れる烏野テーブルで、次に口を開いたのは澤村だった。今度は大地がのろけだした、と実況しながらけらけら笑う菅原は、澤村が何を言い出すのかと耳を大きくして聞いているが、澤村はそんなこと気にも留めずに揺れるグラスの水面を見つめてから嬉しそうに話を続ける。
「好きなもの前にすると目きらきらさせて喜んだりするところとか。本当は人見知りなんだけど、慣れたらすごい人懐っこくなるところとか。それと、心配とかじゃないんだけど、ほっとけないんだよな、なんか」
「でも、笑った顔の破壊力やばいですよ。俺の彼女」
「いや。それはうちのも一緒よ」
二人とも幸せそうだな〜なんてゆるゆるの顔のままで新郎新婦の方へなんとなく視線を送った東峰が、写真待ちの人だかりがすっかりなくなり、司会のスタッフさんがいそいそと準備を始めたことに気付くと、ものすごく割り込みずらい気持ちになりながら澤村の肩にちょんちょん、と触れた。
「あの、だ、大地?」
「ん?」
「……盛り上がってるとこ悪いんだけど、写真。そろそろ、」
「ほんとだ。行くか」
「そうですね」
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祝福の言葉をかければ、恥ずかしそうに成田が笑う。懐かしい面々と写真を撮るのはすごく久しぶりだ。
「ハイ〜じゃあニッコリ笑顔でおねがいしま〜す!ニッコリ〜あらいい笑顔〜!もう1枚っ!アイッありがとうございま〜す」
テンション高めのカメラマンに笑わされたせいか、1回目は東峰が半目で、2回目は木下がブレて、3回目でようやく良い写真が撮れたのだが、どれを見ても成田は一番良い顔をしていた。
「一仁くんに聞いてた通り、バレー部の皆さん本当に仲が良いですよね。私帰宅部だったので、仲間みたいな存在ってとっても羨ましいです」
ウエディングドレスを着て、成田よりもコミュニケーションをはかる新婦は、完璧だった。癒されるような微笑みに、白い肌に、浮き上がる鎖骨。みな同じように彼女を綺麗だと思った。
けれど、仲睦まじい新郎新婦を見ながら澤村と縁下だけは加えてこっそり思っていた。いちばんかわいい、自分の恋人のことを。
キーワード : たそがれの島の澤村とてのひらの縁下 × さりげなく惚気合戦
モドル