マシュマロ10g
友達が昨日、楽しそうに言ってた。みょうじちゃん、彼氏に愛されてんねー、だって。
自販機の前で何を買うか。いつも悩む。カフェオレか、いちごミルクか。珍しく今日はその2択だ。いつもはもっと悩むのに。そうかなぁ、私は聖臣しか知らないから普通だと思ってたけど。
ガコン、と重い音がして。落ちたパックのジュースを手に取れば、少しだけ角がつぶれていた。別に飲めるから、いいけどね。
「なまえ」
「あ、聖臣だ。なにしてるの?」
「……べつに」
もしかしたら。一昨日、私が10円足りなかったとしょぼくれて教室に戻ったのを思い出してわざわざ来てくれたのかもしれない。顔はめちゃくちゃめんどくさそうだけど。膨れた後ろポケットは当たり前なのに、そんなことを考えて、私は嬉しかった。
「この間10円足りなかったってピーピー言ってたから、ついでに寄ってみた」
ピーピーって、私は鳥か。なんだ、ヒヨコか?ああん?むっとして視線を送れば、聖臣は表情ひとつ変えず、まぁ買えたならいい、と呟いて背中を向けた。その前に、ついで、とは。
『それにほら、みょうじちゃんがクラスの男子と喋ってるとすんごい目で見てるよ。知らないと思うけど』
わお、初耳ですね。広い広い背中をバシッと触れば、聖臣がえらく不満げな視線を送ってきたが、大したことではない。まぁよくよく考えてみれば?確かに?遊びに行くと言えば「誰と」って聞かれるし?でもまぁ、それは私も逆なら気になるし。聖臣が嫉妬の視線を送れば人ひとりやれるというのなら話は別だけど、そんな超能力もないから安心だわ。
◎
練習試合の時くらいしかバレー部の見学ができないから、私も応援に来たわけだけど。聖臣と古森くん目当ての女子に痛い視線送られるのなんの。聖臣ファンは仕方ないけど、古森くんの彼女は私じゃないからね?聖臣と付き合ってたらもれなく仲良しになれるわけじゃないからね?
「みょうじちゃんどしたの、縮こまって」
「まぁ聖臣と付き合ってるのは事実だし。しょうがないよね、ウン」
「あはは、自己完結してる」
彼女だからじゃなく、早めに行ったからゲットできた最前列。手すりに手をかけてコートを見渡せば、相手コートに知った顔があって3度見くらいして視線を止めた。あれ、ヨコじゃん!そっか、ヨコ、中学んと時もバレー部だったっけか。練習試合とはいえ聖臣と戦うなんて、心中お察しします……哀れみの瞳でヨコを見ていると、チームメイトと話しながら体育館を見渡した視線とぶつかり、そろってぎょっとしたあと、ヨコは私に手を振った。まじで?なんでいんの?井闥山だったっけ?とでも言いたげに慌ただしく表情をころころ変えながら。ちょんちょん、と肩を触られて。彼氏見てみなよ、という友達に従えば。まぁ不機嫌な様子の聖臣がヨコに視線を送っていた。ヨコ、私はここからじゃなにもしてあげられなそうだわ。ごめん。
「ありがとうございましたー!」
互いに挨拶を終え、対戦ボードを見れば点数とは拮抗とはいえない。井闥山はやっぱり強いのである。
体育館を出て、バイトだという友達に手を振ってから聖臣に会えないかな〜なんてだらだらしていたら、重そうなバッグをさげたヨコがでてきて「2度見したわ!」と嬉しそうに私を見るなり言った。残念、私は3度見しました。
「……どういうこと」
ぬっと体育館の中から現れた聖臣が、眉間にしわを寄せてそう呟いた。
「これは、ヨコ。同中の普通に仲良かった男子」
「……いや正解だけど!はっきり言われると微妙なポジションだな!」
「……」
「で、これは彼氏の聖臣」
「……は!?みょうじ、佐久早と付き合ってんの!?」
「これっていうのやめて」
「スミマセンデシタ」
「……マジか〜めっちゃ見られてたから接点ないはずなのにすげぇ考えちゃったわ〜」
なんとも懐かしいテンションである。説明したにもかかわらず、まぁ聖臣の機嫌の悪いのなんの。
「というわけで、そういうわけ」
「相変わらず雑だな〜みょうじは」
「……なまえ、ちょっと」
シューズを履いたままで渡り廊下に立つ聖臣に呼ばれ、ローファーに履き替えていた私は飛び石の隙間に立つ。どことなくある聖臣と私の隙間を詰めるように手首をつかまれれば、ぐいっと引っ張られ。両腕が私の両サイドからぶらりと落ちてきた。
「人の彼女、雑とか言わないでくんない」
「……聖臣。ヨコ、多分彼女いるよ。超美人の……待って、別れてないよね?」
「お前ヒドいな!ちゃんと続いてるわ!」
聖臣が怒ってくれたのは嬉しいけど、ヨコの発言は特段間違っていない。でも訂正してもまた色々拗れそうなので、ヨコには悪いけど黙っておくこととする。
「そういや連絡先変わった?あいつが送れなかったって嘆いてたけど」
「あ、うん。水没したから。高校入ってすぐ」
「……そっすか。今聞いて伝えていい?」
「ダメ」
「……というわけで。あ、モッチーならこないだ遭遇して交換したからモッチー伝いで言ってもらうよ」
「わかった」
中学までの友人関係は高校入学早々に絶たれたものの、徐々に回復しつつあるのでどうにかなりそうだ。遭遇スポットの多い東京に万歳。
ヨコに別れを告げ、くるりと体を聖臣に向ければ、煮え切らない表情の聖臣が私を見下ろしている。いつ見ても聖臣は背が高いなぁ。
「私は好きだよ、聖臣のそういうところ」
「そういうところ……?」
「うん。眉間に皺が寄ってるよ」
手を思いっきり上にあげ、人差し指と中指でしわを伸ばせば、聖臣はちょっと満足気に体育館に体を向けて歩きだした。そろそろ戻らなきゃだもんね。
「ミーティングがんばってね」
「うん」
「帰ったら連絡する」
「……あ、」
扉に手をかけ、振り返った聖臣はまた眉間にしわを寄せて、難しい顔で口を開いた。
「モッチーって誰」
モッチーも女の子だよ。そう笑ったら、聖臣はなにも言わずに体育館に入っていったけど。背中には浮かんでた。ふーん、て。くっきり。私ってば、やっぱり愛されてるみたいだ。
キーワード / 高校生佐久早・愛が重い・拗れるけどパピエン
モドル