まだクーラーの冷気の残っている軽自動車に乗り込み、エンジンをかけた。程よく舗装されたキャンプ場の道を徐行すると、助手席に置いたもらったばかりの手書きの地図にマークされた番号を探す。
7…8…あった!9番サイト。チェックイン時間ぴったりに来ただけあって、一番乗り。フリーサイトだからこれから他のキャンパーが来るわけだけど、有意義に使ってもさして場所をとらない私はかなり気が楽だったりする。
道から遠い所に車を泊めると、シートを広げて早速設営に取りかかった。今年から始めたソロキャンプ、さすがに手際がよくなってきたんじゃないかと思う。
近年、空前のキャンプブームが起きている。ファミリーから、カップル、あとは友達同士。
例に漏れず私もキャンプの魅力に気付いてしまったその一人なのだけど、子供の頃は家族でコテージに泊まった記憶があるくらいだった。
クーラーボックスからお茶を出してコップに注ぐ。折り畳みの椅子を設営したばかりのテントの近くに広げると、一気にコップ一杯分のお茶を飲み干した。
「はー!おいしーっ」
家で飲めば普通のお茶も、頑張って張ったテントを見ながら飲むとなれば格別である。荷物の上に脱ぎ捨てられた薄手のパーカーを羽織り、その下にあった寝袋をテントに放り込むと、お散歩でもしようかと思い、椅子から立ち上がった。
気持ちいい風が吹き、ざわざわと茶色くなってきた葉っぱが音を立てる。10月になったばかりだけど、もう秋なんだなぁ。ぼんやりと当たり前の事を思い、コップをクーラーボックスの上に置いた。貴重品の入ったウエストポーチを斜め掛けしてテントから離れる。
ソロキャンプは気楽で良い。誰に気を使うわけでもなく、好きなときに好きな事をすればいい。昼寝したっていいし、到着早々お酒を飲んでだらだらしたっていい。
虫取をしてる子供もいれば、汗だくでテントを張るお父さん。ラジオを流しながら昼間からお酒を飲むおしゃれなグループ。テントでごろごろしているカップルや、ハンモックで昼寝している人もいる。
散歩ついでにトイレを済ませると、タンクに水を入れて9番のフリーサイトへ戻った。
あ。2台車増えてる。
もう何組か来ているかと思ったけど、そういえば予約状況見たときフリーサイトの予約状況の空マークが多かったっけ。お隣はほぼ設営も終わっている状況を見る限り、おそらくソロキャンっぽい。勝手に仲間意識を感じていると、テントの中から男の人が出てきて、目があった。
「こんにちはー」
「あ、こんにちは」
感じのいい人だなぁ。一瞬見てわかるくらい穏やかな表情のお兄さんだ。そのお隣はファミリーのようだし、防犯的にもちょっと安心かな。
コンロでお湯を沸かし、インスタントコーヒーの瓶を小さなテーブルの上に置く。何度も読んでいる本を車から出してきて椅子に座ると、ほとんど覚えてるといっても過言でない本を膝の上の膝掛けの上で流し見しながら空気を味わった。
火力を強くしていたからボコボコとお湯が沸く音がしたのはかなり早く、本にしおりを挟んで膝の上に置き、カップにインスタントコーヒーとお湯を入れる。
「あっつ…」
名付けて熱湯コーヒーを飲んでたそがれていると、膝に乗せたままの本を片手で開く。はさんであるしおりは無視して、好きなシーンを探す。ああ、ここだ。コーヒーをテーブルに置くと、読まなくてもわかる言葉を目で追った。
だんだんうとうとしてきて、背もたれに寄りかかって膝掛けを巻いた。自由って最高だ。目を閉じ、風を感じると摂取したばかりのカフェインも睡魔には完敗らしい。
▽
「あははは!」
通りすぎていく人の楽しそうな笑い声と共に目を冷ますと、時計を見る。たっぷり1時間ほど昼寝をした私の頭はすっきりしていた。
夕飯まで時間もあるし、枝でも拾いに行こうかな。持ってきた手提げ袋を片手に森林サイトのあたりをうろうろしていると、お隣のお兄さんが松ぼっくりを片手いっぱいに持っていた。いいなぁ。どこで見つけたんだろう。
「あの。松の木ってどれですか?」
「……ああ、松ぼっくり?」
「はい」
「えっと。あーほらあれ。トゲトゲ?ツンツン?したやつ」
「ど、どれですか?」
着火剤に使えるって本で見たから気になって探してた松ぼっくりを1つも見つけられなかったのはお兄さんに先を越されていたからかと思ったけれど、そんなことはなく。結局松の木の近くまで一緒に行ってもらい、松ぼっくりを何個か手提げに入れるとテントに戻りながら枯れ枝拾いを再開した。
ちなみにお兄さんも戻る方向は私と一緒だ。流れでテントまで話をしながら歩くこととなったけれど、最初から好印象で松の木探しまで手助けしてくれたお兄さんに嫌な予測を立てることはもちろんない。