片付けは全て終わっていた。別れないと不自然だと言うのに、別れがたく思ってしまう。2度目のキャンプはもう幕を閉じるというのに。きっと3度目がある、そんな期待のような予感のようなものがあっても、今の時間を終わりにするのはなんだか悲しい。
「そういえば、先月できたキャンプグッズストア行った?」
「え!縁下さん行ったんですか?」
「まだ」
「私も〜」
ふと、帰りに寄ろうかな、と思ったけれど。これから行って全てを見きれる気もしないし、きっと疲れていて思いっきり楽しめないし、車に荷物は積んでいるし。行かない、という結果になる理由ばかりが浮かんでしまった。
「行けるとしたら、来週かなぁ」
「行くの?来週」
「んー……うん、行きます。多分」
じーっと悩みつつ、やんわりと固まった決意を口にすると、縁下さんがゆるりと目を細めた。
「来週の日曜、一緒に行こうよ」
「え!いいんですか?」
「うん、日曜でいいならね」
「約束ですよ、絶対!」
「……これじゃ俺が誘ってないみたいだな」
スマホのカレンダーを開き、スケジュールを入力した。私の顔ったら、どうしようもなく喜んでいたんじゃないかと思うけれど、縁下さんもなかなかに嬉しそうな表情をしている。設定ボタンを押してから『縁下さんとショップ』の予定画面を見せると、縁下さんが歯を見せてさらに楽しそうに笑ったのはちゃんと見逃さなかった。
「縁下さん、迎えに来てください」
ふざけて口にする。なんというか、調子に乗っていると思われるかもしれないと思ったのはそれを口にした後だった。ああ、となんともないことのように相槌をうった縁下さんが決まっていたことみたいに頷いた。
「いいよ」
「えっ、いいの?」
「なにその反応」
きょとんとしているのに、口は笑っている縁下さんの表情がなんだかとても好きだった。好きって、そういう好きじゃなくて、……でも完全には否定しないけれど、でもそういう好きじゃない。自分自身に否定をするのに精一杯だったけど、なんでこんなに一生懸命にふと思った感情を否定しようとしているのかがわからなかった。縁下さんは好きだけど。そういう好きか決定できる輪郭はまだ微かだった。
▽ △ ▽ △
乾かしたテントとか、そういうのはシーズン中は基本車に置きっぱなしだ。ソロキャンはさして荷物が多くないのが利点で、収納がなければ車に積んでおけばいいし、車がなければどうにでも部屋にしまう手だては思い付く。
洗い直したいものとか、着替えとか、部屋に入れないといけないものを下ろしてエレベーターに乗ると、エレベーターの鏡に写っていた私の顔が緩んでいた。きっと来週の約束が決まったからだ。間違いない。
焚き火の匂いの染み付いた服を洗濯機に突っ込んで、さっそく洗濯機のスタートボタンを押した。消臭力の高い洗剤を入れ、柔軟剤を入れる。空のクーラーボックスをベランダに出すと、蓋をあけて乾燥させる。
シュラフも竿にひっかけて洗濯バサミを留めながら、今回のキャンプも楽しかったなぁ、なんて漠然と思った。
クッカーのごはんは美味しかったし、カレーも交換したし。ベランダから外を眺めながら、ゆるゆると記憶を手繰り寄せる。温泉は気持ちよかったし、星は綺麗だったし。
思い出せば思い出すほど、鮮明に縁下さんが記憶に常にいたことを知らされた。ホットワインもカフェオレも美味しかったな。それにフレンチトーストも、喜んでもらえてよかった。
「ありがとうって、連絡しようかな」
冷たい空気に、青い空。すぐに思い出す。あの穏やかな表情を。ポケットに入れたスマホを触り、出さずに手だけを抜いた。そしてまた手を入れて、今度はスマホを握って手を抜いた。縁下さんとのトーク画面を開いて、ふわふわとした心地でフリックで文字を入力していく。
『ソログルキャンプ、すごく楽しかったですね。ありがとうございました。また来週、待ってます。』
もっともっと伝えたいことはあったけれど、それだけを送信してスマホをポケットにしまった。急がなくてもいい。また来週、会えるのだから。