デート
 もう何時間ぶらぶらしていたんだろう。時計を確認すれば3時間ほど店内にいたのが発覚し、キャンプ同様ギアショップも時間の感覚を失わせるものなことを証明されたような気分になった。

 口に出すでもなくお揃いで買ったシェラカップに、縁下さんが買ってて気になっていたファイヤースターター、ポールも買って、ガチャガチャも結局2回ほど回した。後ろに荷物を乗せさせてもらい、縁下さんもランタンなど買っていたこともあって意外と大きな袋を提げていた。

「結構買ったなー」
「また来たいな」
「そうだね」

 今の会話に一緒に行くという意味を含んでいるのかは私にはわからなくて、少しだけ期待をするだけに留める。車に乗り込み、エンジンをかけながら縁下さんがまっすぐ前を見て静かに口を開く。

「よーし、帰るかー」
「え〜」

 縁下さんのことだ。きっと私を思って早々に帰ろうと提案してくれたのに、むっとしながら優しい瞳を覗けば少しだけびっくりしたような表情に変わり、他に行きたいとこあるの?と逆に聞いてくれた。

「うーん」
「……」
「……でも、デートなんですよね?」

 確かめるようにそれを口に出せば、縁下さんはさっきよりもびっくりしたように目を開き、私の見えない反対を向く。
 自覚はあるのだ。私は思ったことは口にするし、あまりまごまごすることもないタイプなのを。

 芽吹いた気持ちに水をやるように思う。この出会いをチャンスとか、そういう風に思っているわけではないけれど、まっすぐにありのままで居させさてくれる縁下さんにはもうなんの躊躇いもなく思ったことを口に出せるようになってきてる、と。最初の松ぼっくりを拾ったあの日とは確実に気持ちが違うことを。

「……確かに。デートだね」
「うん」
「じゃあどっかぶらぶらして夕飯食べて帰ろうか。みょうじさんがまだ時間平気なら」
「平気です!」

 食いぎみに返事をすれば、思わず縁下さんと私は笑って。緩やかな目がまっすぐ前を向き、すっかり車内の温まった車を走らせ始めると、縁下さんの横顔を双葉を大きくするように眺めた。


 家に帰るのには30分ちょっとしかかからないし、都会のように車を走らせればなんでもあるわけではない。結局近くにあるショッピングモールへ行き、車を停めるとサイドブレーキをひいた縁下さんがふわりと目を細める。思わず下唇を噛んでむくむくと膨れ上がる気持ちを抑え、みょうじさん行こ、という優しい波のような声に揺られるようにシートベルトを外した。


▽ △ ▽ △



 ぶらぶらとショッピングモールを一周し、ちょうど夕飯時というタイミングでレストラン街へ行く。

 ピザ美味しそうだなぁ。あ〜アラビアータもいいなぁ。焼きたてパン食べ放題は魅力的だし……でもなー!和食もいいなぁ。お腹空いてるからか白米食べたくなってきた。とんかつ、いや、さすがにデートでとんかつはどうなんだろう。

 口に出したら引かれそうなほどにべらべらと心の中で喋っていると、私の顔を遠巻きに見る縁下さんが可笑しそうに笑っている。変な顔してたんだろうかと思ったけれど、笑ってくれてるくらいだから大したことないんじゃないかと思い込むことにした。

「俺はどこでもいいよー」
「ま、迷う……」
「あはは、みょうじさんの顔見てればわかるから」

 とりあえず端から端まで歩き、くるりと振り返ってみた。うーん、悩むけど……せっかく縁下さんと外食するならキャンプじゃ食べられないものがいいな。

「縁下さん!」
「お、決まった?」
「うん!お寿司にしましょう!」
「いいね、寿司」

 私の選択は縁下さん的にもなかなかヒットだったようで、反応は上々だった。
 振り返ってすぐに見えるところだったし、人もまだ少ない時間だったお陰で店内にすぐに案内された私たちは、横並びでいろんな色のお皿が回るレーンを目の前にしてカウンターに座る。

「味噌汁頼もうかな、縁下さんは?」
「いるー……あ!」
「ん?」
「ホヤ酢あるじゃん!」

 稀に見るテンションの高さでそう言うと、注文シートに味噌汁2と書き込み終わった私にメニューを見せて、これも頼んで、と嬉しそうに言った。あんまり考えたことなかったけれど、もしかして縁下さんの好物なんだろうか。

「ホヤ酢……と」
「久しぶりに食べるわ。居酒屋でもあんま置いてないから」
「そんなに好きなんだ」
「うん」
「そりゃお酒も強いわけですよね」

 今日はお酒が飲めないのは残念だけど、縁下さんが好きな食べ物がホヤ酢だという事実も知れた。予想を遥かに越えたものだったから、聞くかこんな偶然があるか以外に知る方法はなさそうなものだったからびっくりはしたけれど。
 一方的に私が思っていたデートみたいだという思いも、縁下さんのお陰で『みたい』が外れた今だから余計に思う。やっぱり、少しずつ変わってきてるって。

「縁下さん、行ってみたいキャンプ場ってあります?」
「人気のところとか興味あるけど、大抵すぐ埋まるからなぁ」
「そこネックですよね」
「したことないけど、キャンセル待ちとかしてみればいいのかな」
「私もしたことないや……やるだけやってみようかな」
「どこ?みょうじさんも行きたいとこあるの?」

 私達は気付かない。今まさに次回のソログルキャンプ計画をたてている真っ最中なこと。
 温かい気持ちが、とくとくと注がれる。流れていくお寿司を見ながら、待っている味噌汁とホヤ酢が運ばれてくるまで、あと少し。