東北の冬は言わずもがな寒い。雪だって普通に降るし、朝晩の冷えは痛いほどの時だってある。2人で入る正方形のこたつの中では足がぶつかって、最初はふざけてじゃれていたもののそれは少したったらいつものことみたいに足先が寄り添ったままになった。
絶品だったトマト鍋のスープはわざと少し残し、シメはやらないでそのまま鍋をキッチンのコンロに乗せた。明日の昼にショートパスタを入れてパスタにしようかって話して。
明日は出掛ける予定はないし、おうちでゆっくりまったり、忙しなく過ごすことなくいようなんて話していたから、こういうところが気が合うのって最高だなんてこっそりと思った。
「あ、ケーキ」
「忘れてた…でも今は食べられないかも」
「おなかいっぱいで食べるのもね」
「ちょっと休憩したいな」
一旦鍋に使ったお皿を片付けると、先に入っておいで、と沸いたばかりのお風呂に入るように促され、素直に頷いた。
バッグから下着の入った折り畳みのケースを出し、ぶらぶら揺らしながらお風呂場へ向かうと、タオルやパジャマの準備をしておいてくれた力さんとすれ違って「ゆっくり入りな」といつもの笑顔を向けられ、きゅうんと胸が高鳴った。
服を脱ぎながら、さっき話したことを思い出す。私用にパジャマを買おうとしてくれたみたいだけど自分の好みに自信がなくて結局今日は力さんのスウェットを借りることになった、そんな話。
「大きかったらごめんね」なんて謝られたけど、そうやって思ってくれることがもう嬉しい。力さんの服を借りるのもどきどきするし、うん、やっぱり嬉しい。
ドラッグストアでよく見かけるシャンプーやボディーソープが最低限並ぶお風呂場にさえ、力さんのおうちにいることを実感して、羞恥心みたいなものが水紋と共に湯船に広がった。
今日は日付が変わるまで一緒に起きていられたらいいな。テレビはクリスマスの特番がやっているだろうし、飽きることはないと思う。力さんがお風呂に入ったらケーキの準備をして、一緒に前祝いをしよう。こたつでワイン、それも最高かもしれない。
ふわふわのタオルで体を拭き、髪の毛を丁寧に乾かす。持ってきたブラシで髪をとかしている時、ふと気づいた。もし写真を撮るとなったらすっぴんなことに。キャンプの間、力さんに何度かすっぴんは見られているからそれはいいけれど、思い出に残るとすれば別だ。脱衣所の電気を消し、力さんの後ろ姿を眺めながら近づいていく。
「お先にお風呂頂きました」
「うん」
返事をしながら力さんは振り返り目が合って何秒か黙ってしまった。私の全身を見てから「うん」となぜかもう一回言うと、テレビに視線を戻してしまう。はみ出るのがわかっていながら力さんにくっついてこたつ布団をかぶれば、隣から伸びてきた手がぎゅうっと私を抱いた。
「湯加減はどうでしたか」
「最高でしたよ〜」
「……ん?」
静かな息遣いが髪に近付いてすぐ、力さんの穏やかな目が笑み、薄い唇がなんだか幸せそうに動いた。
「なまえの髪、うちのシャンプーの匂いする」
至極当たり前のことなのに、また一歩進んだような、そんな気持ちになった。間違えてメイク落としちゃったけど、そんなのどうでもいいや、もし力さんと何年もお付き合いをするならば、チャンスは何度だってある。来年は忘れないようにすればいい。簡単なことみたいに、そう思えてしまった。
▽ △ ▽ △
2と9のロウソクを立て、小さく火が揺れている。ブッシュ・ド・ノエルのサンタクロースは力さんのお誕生日の前祝いをする為に切り株に腰かけているようにも見えるほど、お誕生日感満載だった。ふうっと息を吹きかけた力さんは、ちょっと恥ずかしそうに笑っている。おめでとうには数時間だけ早いから、長い袖を余らせながら拍手をした。
「ごめんね。前祝いになっちゃった」
「生モノだし早く食べた方が美味しいだろうし、いいんだよ。もうすごい嬉しいから」
「もう少しだね、お誕生日まで」
「うん」
こたつから抜け出た力さんがクローゼットから小さな箱を取り出して、さっきよりも恥ずかしそうになにも言わずに私にそれを渡してくれた。箱の形状的にぱっと予想がつかなくて力さんとプレゼント、交互に視線を往復させたら、力さんは可笑しそうに「開けてみて」とこたつに足を入れながら静かに言う。
箱には誰もが知っているジュエリーブランドのロゴが入っていて、フタを開けて出てきたのは小ぶりな星のモチーフのついたゴールドのブレスレットだった。
控えめな星が、力さんと私の大好きなものとそこに光るものを示しているようで、溢れそうだった気持ちが流れ出ていく。白い布に包まれたネックレスを取った力さんが私の袖をまくってつけてくれるのをじっと眺めて、ありがとうすら言えなくなる。
「指輪とかネックレスは、まだ早いかなって思って。ブレスレットにしてみたんだけど……なまえ?」
「どうしよう。泣いちゃうよ」
「なんでよ、笑ってよ」
へらりとしか笑えないほど嬉しかった。ありがとうを消えそうな声で言い、ブレスレットを揺らしながらそばに置いていた紙袋を取って力さんに差し出すと、力さんは予想していなかったような表情でそれを受け取って覗き込んだあと口を開いた。
「このコーヒー豆って」
「そうだよ、前に話した所で買ったの。あとひとつは開けてみて」
「すごいいい香りする……ブルーマウンテン!?」
「えへへ」
「こっちも開けていい?」
「うん、開けてみて」
自分用に買うには勇気のいる金額のコーヒー豆と、キャンプでも使えるようにと選んだコンパクトな手動のコーヒーミル。明日早速飲もうと言ってくれたけどもちろん遠慮して、それでもきっと明日しれっとブルーマウンテンのコーヒーが出てくるのかもしれない。
ブレスレットが視界で揺れる度にすごく幸せが募っていく。仕事帰りに力さんに会ったとき、いつもゴールドのピアスをつけていることに気付いてくれていたのかもしれない。ブレスレットを選んだ理由だって、力さんらしくて。
早く日付が変わって欲しいと、力さんに買ったプレゼントを渡してお揃いなんだって言いたいと、数時間後の楽しみをまた募らせた。