てのひらと優しい瞳

 ほんのり縁の溶ける視界。二人で飲んで、今日は力さんの家に帰る。ちっとも酔っぱらっていない力さんと、ちょっとだけ気持ちのいい私は、仲良く手を繋いでいる。絡む指が時折くすぐられ、力さんを見れば知らんぷりをするように私のいない方向を見た。

「ねぇ、酔ってる?」
「…そう見える?」
「全然」
「なまえはちょっと酔ってるけどね」
「……ちょっとね」

 時々思うんだ。テレパシーでも使えるんじゃないかって。言わなくてもわかるの。もし力さんがテレパシーを使えない人なら、私のことをよく見てくれているんだって。そうやって、期待しちゃうんだよなぁ。

 ドアを開けてくれた力さんの顔をちらっと見てから部屋に入ると、一瞬で脳裏に更新された力さんの穏やかな笑みがぽかぽかとした気持ちにさせてくれる。綺麗に整頓された部屋に、小さめの二人掛けソファ。滅多に模様替えをしない力さんの部屋はいつ来ても同じに見えて、それがすごく心地が良いのは、すっかりこの部屋に慣れたからだと思った。

「なまえの着替え、出しといたよ」
「ありがとう」
「お湯溜める?」
「んー、力さん入りたかったら溜めていいよ?」
「俺もまだいいかな」

 テレビを付けた力さんが適当にチャンネルを変え、私の手を取って力さんの手のひらと私の手のひらをくっつけた。なまえの手はちっちゃいね、と穏やかに言いながら。

 隣から笑顔が届くと、どきりと心臓が跳ねた。力さんって、時々こういうことするの、本当心臓がびっくりちゃう。酔っぱらっていないのがわかるから、なおさらにどきどきと体温が上がっていく気がする。

 男女の手のひらを比べればもちろん違うけれど、力さんの手は努力の証が沢山あった。ごつごつとした関節がおうとつを成して、明らかな働く男の手が私の手にぴったりとくっついていた。
 顔とか、髪とか、背丈とか、雰囲気とか、もちろん性格とか。色んな所を知っているつもりだったけれど、繋がった手に隠れた手のひらをまじまじと見るのは久しぶりだった。少しだけ力さんの手のひらがずれて優しく絡み、包まれる。

「……久しぶりに見たな、この芸人さん」
「あはは、幼稚園児ゲラゲラ笑ってる〜かわい〜」
「確かに流行ってた時もみんな真似してたわ」

 繋がれた手はにぎにぎと動くけれど、テレビの中でお腹を抱える子供の姿に私たちは癒されまくっている。懐かしいギャグは、一周してなんだか面白く感じてしまうのがまた不思議なところだ。
 洋服でいう、80年代ファッションが今の若者にはやったりしたのと同じような感じだと思う。

「あ、CM!お風呂沸かしてくる〜」
「緑の一番大きいボタンね」
「さすがに字くらい読めるよ!湯はりって書いてあるやつでしょ?」
「それそれ」

 さっきまで座っていたソファに戻ると、力さんがちゃっかり真ん中に座り、のびのびとテレビを見ていた。CMはちょうどあけたところ。
 薄らながら酔っているのを良い事に、ソファの後ろから力さんの首にゆるく手を巻き付けると、力さんの首元に鼻を寄せてふわふわと心地よくなってくる。

「はぁー……落ち着く、」
「そう?」
「……うん」
「俺はなまえといると楽しいよ」
「楽しいも嬉しいけど、私も力さんを癒したいなぁ〜」
「なまえはそのままでいてほしいけどなー」

 優しい瞳が語りかけるように私を見ている。テレビでやっていた幼稚園での企画は、CMが明けたときにはもう終わっていた。首にゆるく巻いていた私の手を、力さんが楽しそうにいじり、なんならマッサージをしてくれる。

「……ふふ」
「くすぐったい?」
「いっこ前のやつは気持ちよ、あはは」
「あはは!なまえ、さっきの子供くらい笑ってる」

 いたずらに笑う力さんは落ち着きと無邪気が共存するようで、時々こういうこともするよね、なんてまた笑いながら思った。

 友達にお願いされ、力さんと撮った写真を見せるといつも言う。優しそうな彼氏だねって。かっこいいねとか、そんなことを言われることもある。

 でも。

 ……絶対に教えてあげないけど、力さんの魅力はそれだけじゃない。もちろん、どんなにお願いされたって、教えてあげないけどね。

3万打企画