クーラーボックスに入っていたお酒2本とちょびっとのおつまみ、あとは椅子を運んで準備は万端。
早速お酒を飲み始めると、密かに気になっていたことを聞くことにした。
「そういえば自己紹介してなかったですね。私、みょうじなまえっていいます」
「みょうじさんか。俺は縁下です」
「初めて聞いた名字……珍しいですよね。名前は?」
「力。縁下力」
「えー!縁の下の力持ちじゃないですか!」
「それ人生で出会う人ほとんどに言われてるんだよね」
「言いたくもなりますよ!かっこいいじゃないですか。年は?おいくつですか?」
「今28です」
「やっぱり年上だ。私、今年25なんで……」
「やっぱりって?」
やっぱりという言葉にひっかかったらしい縁下さんに「落ち着いてるから上かなって思って」と言うと、ふざけたように笑って「それもよく言われる」と返された。夜は深まるほどに冷える。膝掛けと入れ違いに車から毛布を下ろし、膝に巻き付けた。
「寒かったら毛布もう一枚あるよ」
「大丈夫です。足が寒かっただけだから」
会ったばかりの縁下さんにすっかり甘えっぱなしだ。結局焚き火だけじゃなく、ホットワインまでちゃっかりごちそうになっているし。
はあっと息を吐くと少しだけ息が白くなった。空を見上げると星がきらきらしている。夜のキャンプ場は大声でお喋りに花を咲かせてはいけないのだけど、縁下さんとならそのへんの事も問題なさそうだ。
「みょうじさん、晩ごはんなに食べたの?」
「ロコモコ丼。ほとんど温めるだけの手抜きメニューですけど」
「ロコモコ丼かー、うまそうだね。次やろうかな」
「縁下さんは?」
「俺は冷凍餃子焼いただけ。あとは缶詰とか適当に」
「冷凍餃子?なるほど……考えたことなかったなぁ。私も次やろっかな」
「家で冷凍餃子とか食べたりする?勝手にパリパリの羽根出来たり、めちゃくちゃ進化してるよな」
「それすごくないですか?水溶き片栗粉とかやらなくても?」
「そうそう、パリパリになんの」
聞いてるだけでよだれが出そうだなんて思いながら、ホットワインを口にする。色気のない会話に安心しつつ、気さくな縁下さんのプライベートがなんだか気になってくる。
「縁下さんは付き合ってる人いるんですか?」
「彼女かぁ。もう随分いないよ」
「へぇーそれは意外。優しいしモテそうなのに」
「どうかなぁ。優しければモテるってわけじゃないでしょ」
「……学生の時はそう思ってたけど、大人になったら優しいのが一番大事な気がするけど」
パチパチパチパチ。薪が焼ける音がする。焚き火に手のひらを向けて暖を取りながら縁下さんを見ると、穏やかな表情に安心しきりになる。学生の時は面白い人がいいとか、かっこいい人がいいとか、背が高い人がいいとか。よく考えたら外見とか刺激を求めてたんだなぁと大人になって気づく。またアラサーとかになったら変わるのかもしれないけど、今は安心を求める時期に入っているような気がする。それに縁下さん結構かっこいいと思うけどな。
「みょうじさんみたいに言ってくれる子は俺の回りにいないかな。みょうじさんは?明るいし、恋人くらい居るんじゃない?」
「いたら焚き火便乗したりしないですよ」
「まあそっか。俺が言うのもおかしいけど、本当に変なやつもいるから気を付けなね」
「いつもは全然交流しないんですけどね。縁下さんには懐いちゃいました。ほら、お隣さんはファミリーだし、危険を感じたらいつでもダッシュで逃げられますから」
「あはは、正直者だなぁ」
「でも本当に。頼りになるお兄さん的な存在なんで」
お隣でマシュマロを焼くファミリーはほのぼのした雰囲気である。沈黙タイムになり、スマホで焚き火の動画を撮っていると、縁下さんが最後の薪をくべた。入ってきた腕からそのまま縁下さんを勝手に撮って赤い停止ボタンを押すと、縁下さんは椅子の背もたれに寄りかかって少し恥ずかしそうな表情だった。
「俺はうつんなくてもいいでしょ」
「一瞬ですよ、一瞬」
「本当、女の子にこんな懐かれるの初めてだよ」
「縁下さんが気づいてないだけですよ。慕われるタイプっていうか。……うん、やっぱ懐かれてますって」
ホットワインをあと少し飲んだら底が見える。心地よく程よく酔って、このくらいなら明日に影響もないだろう。焚き火を見ながら語るようにぽつぽつ喋っていると、カシャ、と聞こえたシャッター音に反応して縁下さんを見た。
「あはは、雰囲気出てる」
「どれ?」
「ほら」
「それ、ラインのアイコンにしたい……!」
「いいね。はっきり顔うつってないし」
それから自然と連絡先を交換する流れとなり、その場でアイコンを変更した。とても良い感じだ。
ソロキャンは最高だけど、こうやってたまに人と話すのもいいなんて思いながら冷めてきたホットワインを飲み干し、ご馳走さまでしたとお礼を言った。
焚き火が弱まってきて、そろそろ9時半。さっとコインシャワー行って歯磨きして寝なくちゃ。縁下さんを見ると、のんびりムードから一転、さっと立ち上がって大きく伸びをした。
「ん〜……そろそろ片付けようかな」
「手伝います。片付け」
「いいよ、女の子は色々あるでしょ。俺シャワー行ったしもう着替えて寝るだけだから」
「じゃあ……お言葉に甘えさせてもらいますね」
消灯まであと30分。私も自分の椅子やゴミをテントへ持ち帰り、最後に焚き火の消化確認をする縁下さんに近づいた。
「ありがとうございました。おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
冷たい空気に反し、ぽかぽかした気持ちでいっばいになる。
シャワーも歯磨きも、焚き火で乾燥する肌のスキンケアも済ませてテントに戻ると、縁下さんのテントの中に明かりが優しく灯っていた。しっかり昼寝したのにうとうとしてきて、大きなあくびをした。