スーパーマーケット
 カートを押すのをやめてブロック肉の前で固まる。いいなぁ。いつかやりたい。ブロック肉をどーんと焼いて、食べるの。上部のポップには今夜はおうちでバーベキュー!とハイテンションなフォントの文言。ちょっと違うんだよなぁ。私はキャンプをした上でバーベキューがしたいわけであって。うん。とにかくそういうことじゃない。今日はキャンプの買い出しだから、気持ちはキャンプ場に向いてるのだ。

 ブロック肉のゾーンを通りすぎ、焼き肉用の肉とにらめっこする。実はこの間最近小さな鉄板を買ったばかりだから、何か焼きたくて仕方ない。焼き肉…じゃないような。お肉コーナーから一旦離れると、冷凍コーナーへふらりと立ち寄った。

 ……あ。冷凍餃子。

 それを見て思い出すのはもちろん縁下さんしかいない。キャンプ場で会った1回目以来、連絡を取ることはなかったけれど、何かにつけて思い出してしまう不思議な存在となっていた。水なしOK!そう書かれた冷凍餃子を手に取って、かごに入れる。これなら鉄板で焼けそうじゃないかと思って。
 ……待てよ。蓋は無くてもいいんだろうか。かごに入れた冷凍餃子をまた手に持って裏側を読んでいると、目の前から歩いてきた人が少し遠くで立ち止まった。ちゃんと通路の端に寄ってるんだけど、邪魔だったんだろうか。恐る恐る顔を上げたそこには。

「みょうじさん……?」
「……はっ!」
「よかったぁ。人違いじゃなくて」
「………縁下さん!」

 なんたることだ。本当にスーパーで会うとは。驚きとか色んな感情を取っ払って残るのはじわじわと膨らむ高揚感。

「ほんとに会えちゃいましたね」
「会えちゃうもんだね〜」

 和やかに進む雰囲気に、懐かしさを覚える。なんでだろ、やっぱり落ち着く。嫌なこととか、モヤモヤしてたこととか、全部浄化されてく感じがする。

 ただなんとなく、縁下さんの表情は心なしか疲れているように見えた。お仕事帰りかもしれないな。時間的にも。そもそも、縁下さんって何のお仕事されてる方なんだろう。

「あ。餃子買ってる」
「これ、キャンプで食べようと思って。2連休取れたんで」
「あれから俺も行ってないなぁ。そっか。その手もあるよな……いつ行くの?」

 縁下さんの独り言らしいものが堂々と口から漏れて、可笑しくて。

「明後日かな。縁下さんも行きます?……なーんて」
「予約取れんのかなぁ。どこのキャンプ場?」

 ふざけて誘った、いや8割くらいふざけて2割くらい希望を込めて誘ったつもりだったのだけど、まさか縁下さんもお休み?土日休みなのかな?遠足前の小学生みたいな気分が身体中に広がって、なんだかわくわくしてくる。

「最初の方に行ったことあるよ、そこ」
「どうでした?」
「やっぱ上の方だから景色が良かったなぁ。写真みる?」
「見たいです!」

 まだあったかなぁ。呟きながらスマホをいじる縁下さんをわくわくしながら待ってると、青々した葉が綺麗な山並みの写真を見せてくれて、縁下さんはテンションの上がる私を穏やかに見て。

「縁下さんが良ければ一緒に行きましょうよ!」
「うん。帰ったらキャンプ場に電話してみょうじさんに連絡するよ」
「わかりました!待ってますね!」
「フリーサイト?」
「です!」
「了解。じゃあ、また後でね」

 これが本当の、じゃあまた。縁下さんには何気ない一言に、こんなにも嬉しくなる。それから縁下さんと別れて、ひとつ疑問になる。ソロキャンプを2人でするって、何キャンプって言うのかな。


▽ △ ▽ △



 愉快なラインの通知音が鳴り、画面を見る。もちろんそこには縁下さんの文字。

『フリーサイト空いてたから、俺も行くことにしたよ。』
『よかった!すっごく楽しみです!夕飯何食べるんですか?』
『カレーかな。クッカーで米炊きたいんだ』
『キャンプっぽいてすね!カレーも作るんですか?』
『まさか。レトルトだよ』
『私もカレーにします!お米は炊けないけど!』
『多めに炊いてあげようか?』

 まじですか!縁下さんはもしかしてどこかの神様かなにかですか! 上がりきったテンションで文字をフリックして、正気になって見直して。
 ……だめだめ。これはさすがにテンション高すぎて引かれちゃう。そんなの悲しすぎる。