ていうかまだ付き合ってなかったの、と今日の飲み会で何人に言われたか指折り数える金曜日の夜深く。

「今日もぐでぐでのでろでろだなぁ」
「だっててつろーくんがいるからさあ。まーいーかーってね」
「うん、まーいーよ」
「でへへ」
「にしても今日もかわいいねぇ、なまえちゃんは」
「そんなことないよ〜照れる照れる〜」

 にいっと笑ってうつむけば、繋がった手が楽しそうに揺らされる。顔を上げて街灯に照らされる鉄朗くんの表情は柔い。

「ずっと好きだった子が彼女になってこうやって手繋いでるじゃん?俺は幸せ者よ」
「え〜ハッピー対決する?」
「え〜俺余裕で勝っちゃうよ?」

 付き合いたてが一番楽しいと人は言うが、付き合う前も付き合ってからも今となって考えればそう変わっていないような気がする。夜風が冷たく頬をさらりと撫でていくけれど、そんなことよりも恋人との帰り道が楽しくてたまらない。

「てつろーくんて人との距離感が絶妙に良いよね。不思議なことにいて欲しいときにそばにいたりさ」
「そ?それはなまえちゃんだけだけど」
「でも基本みんなに優しいから、それはちょっとだけ内心やきもきする時もあったりして」
「わ、初めて聞いた。なまえちゃんのやきもち」
「え〜やくよ。大好きなんだから」
「……俺の不意をつく天才かよ」

 がらんとした歩道の真ん中を陣取って歩くのは気持ちが良い。昼間ではできないことだからだろう。
 ぶらぶらとしたままの手があたたかくて、言葉の意味もお酒が入っていても簡単に理解できる。向こうの歩道を歩くサラリーマンや今まさにすれ違ったばかりのランニング中のお兄さんにどう思われようとも、好きな人に好きだと言えることは素敵なことだと思う。

「バカップルだと思われたかな」
「いんじゃないの。バカップルなんだし」
「あ、そうだった」
「あは」

 もうすぐ家に着く。鉄朗くんが何か言いたげにくいくいと繋がった手を揺らし、鍵ある?と口にすると私はバッグから鍵を出した。

「あーけーて」
「いーいーよ」

 手慣れたように鍵を開けて、私を中にそっと入れてくれた鉄朗くんをフローリングに上がってから振り返り見ると、伸びてきた手がゆったりと私を包み、そのまま顔を肩に埋められる。

「あ〜、好き」
「ぎゅー」
「ぎゅー」
「……なんかバカップルみたい」
「さっきも言ったけどバカップルなんだって」
「あ、そうだった」

 離れがたいとはこのことだ。泊まってほしいけど、明日は朝から予定があるって言ってたような。だから寂しいけれど今日は解散だ。

「じゃあばいばいのちゅーでもして帰るかな」
「てつろーくん違うよ〜またねのちゅーだよ」
「……そっちが正解だわ」
「かわいいちゅーがいい」
「お。何回でもいいのかな」
「んーと、じゃあ3回で」
「え〜」

 腰に手がまわったままじっと見つめられ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、とリップ音を立ててから親指の腹で唇をひと撫でされると、瞼がとろとろとしてくる。
 名残惜しそうに一歩下がってドアノブに手をかけた鉄朗くんは、口の端を上げて色をまとって呟いた。 

「もー終わっちゃったねぇ」

 見透かされているような瞳。うっすらと上がった眉。その笑顔が意地悪なのなんの。

20220206