これは私の単なる憶測でしかないのだけど、牛島くんと私は今、ちょっと良い感じだ。
思い返せば、少し前のバレンタイン。男女問わず仲の良い友達にチョコレートを渡していたら顔色ひとつ変えず近寄ってきて、俺にはないのか、なんて牛島くんが言うものだから目をぱちぱちしたのは言うまでもなく。
一見同じラッピングの中にひとつだけリボンの色が違う、牛島くん用にしていたものをなに食わぬ表情で渡せば、ほんの少しだけ目元がゆるんだような、ゆるんでいないような。きっと気のせいな気がするけれど、もしもそれが気のせいでも、私がただの友人を少しでも越えているのならいいなとは思った。
口数は決して多くないものの、牛島くんはピンポイントに大切なことを口にする。確実に、的確に、迷いなく。
それを痛感したバレンタインはあっという間に過去となり、来るホワイトデー。朝練を終えてクラスにやってきた牛島くんは自分の机に荷物を置くなり私のもとへ歩いてきて、言った。
「みょうじ。今日はホワイトデーなんだが」
「あ、うん」
「みょうじに何かあげないのかと天童に言われたが、用意できなかった」
しなかった、ではなく。できなかった。それが頭の中で響き、口角を少し上げて首を振る。
「大丈夫だよ、そんな気使ってくれなくても。お返しが欲しくてチョコ渡した訳じゃないから」
「気を使った訳じゃない」
「ん?」
「何をあげたら喜ぶか考えたが、いまいちこれというものがなかった」
低い声が教室に響き、クラスメイトは私を見てにやにやと笑っている。可笑しいと笑っているんじゃなくて、少女漫画でも見るような表情で。
「今週の日曜は何か予定はあるか」
「日曜は……何もないと思う」
「みょうじにお返しを買いたいんだ。みょうじが選んでくれないか」
きっと彼の中ではすべてまとまっていて、その報告と提案を兼ねたものをされているのだろう。それでも不快な思いにならないというのは、私が牛島くんに好意を寄せているからに違いない。小首を傾げた牛島くんが深い瞳の中に私を閉じ込めると、悔しいくらいに顔が熱い。
「嫌か?」
「……ううん、すごく嬉しい」
自分の机に戻る牛島くんの背中は大きくてかっこいい。日曜日までに、新しい服を買いに行っちゃおうかな。可愛い髪型の練習をしてみようかな。気のせいじゃないかもしれない。牛島くんと私は良い感じ。
20211016