「兄ちゃん」
「んー?」
「……おしっこ」
「おしっこ!?さっき聞いたやん!行っとくかって」
「漏れる」
「なんでギリで言うねん!悪い、先行っといてええから!」
「のんびり行っとく〜」
弟を抱えて通りすぎたトイレへ戻り、駆け込む。結果はぎりぎりセーフやった。あっぶな〜〜!パンツもズボンも何も持たされてへんし、わたるが漏らしたらもう帰るしかない。
あいつらどんくらい進んだんかな。一旦戻ってるし、なかなか追い付けへんかもな。
トイレを出ると、ピンクのフラミンゴを眺めるみょうじがなぜか居って、ぱたりと足を止めた。ちょっと、わからへんくて。今どういうことでみょうじがそこに居るんか。
「ごめんな、勝手に待って」
目が合ったみょうじがいたずらに笑って言う。わたるが手を拭き終わったタオルを俺に返してみょうじの方へ向かうと、それはもう自然にぎゅっと手を繋いだ。
「わたる、どんだけ懐いてんねん」
「もう仲良しやもんね」
「おん」
「みょうじはなんでここに居るんやっけ…?」
「あー…言ってもええって言われたからいうけど。内緒にしてな」
きっとあいつらが通ったであろうルートを通りながら話を聞く。結論から言えば、どうやらあの2人は両思いらしい。詳しいことは言うてなかったけど、とにかく両思いらしい。だから、みょうじが気を効かせて俺んとこに戻ってきたんだと。ほんのり期待してもうた俺、アホやなぁ。
俺は許可なんか取ってへんけど、どうせくっつくんやしええかと思てみょうじにあいつの最近の話をした。
「あはは、めっちゃ両思いやん。もう合流せんでええ気がしてきた〜」
「……ええか!お互い適当に連絡入れて解散しよか」
「せっかく来たしなぁ、わたるくんと折角仲良うなったしなぁ」
サクサクとスマホを操作するみょうじが不服そうに睫毛を下げる。まじまじ見たらいけないのはわかってても、ついついみょうじを見てしまう。
「なまえちゃん」
「ん?」
「これなに?」
わたるがベンチの上に置かれた袋を覗き込んで、みょうじに首をかしげて聞いた。わたる、ナイスや。実は俺も気になっててん。よう聞いてくれた。帰りにお菓子買ったろ。
スマホをしまったみょうじが、なんや恥ずかしそうに頬をピンクに染めだして、またなんか、ぎゅん!てなった。
「わたるくん、ウィンナーとか唐揚げとか、好き?」
「好き!」
「お腹へってる?」
「これ、お弁当なん?」
「ピンポーン」
「なまえちゃんつくったん?早起きしたん?オカンくらい?」
「わたる、質問攻めしすぎ」
「山田くんは?」
「……へ?」
「好き?定番おかずやけど。実はな、私らこっそりお弁当作ってん。けど、抜けてもうたからみんなで食べれなくなったやろ」
「まじか!手作りなん?え、どうすんの?それ」
「もしよかったら食べてほしいかな。一緒に」
人生初、女子の手作り弁当。丸焦げやない限りはうまいに決まっとる。ていうか、なに。みょうじの言動がいちいち可愛いと思ってしまうんやけど、なに。俺好きなん?みょうじのこと?ほんまに誰か教えてくれ〜〜久々やねん、こんなん。
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あかーん!めっちゃ楽しかった!なんかあいつから電話来とったけど充電なくなりそうやから知らんかったことにしよ。
春くらいに動物園行ったけど、種類がちゃう。楽しさの種類がちゃうねん。女子の弁当か?いや、みょうじのおかげか?
『うまく言われへんけど。他の男子とは違うな、山田くんは。根っから優しい感じ?平等……んー、なんかちゃうな。とにかくええ感じに優しいの。広く浅くやなくて、広く時々深く、的な?』
お菓子を選ぶわたるを待ちながら、弁当のお礼に自販機でどのジュースを買うか選ぶみょうじがそう言ったのを思い出した。みょうじの方が何倍も優しいやろ。そんなこと普通言えへんよ。俺の交遊関係、広く時々深く。今度から使わせてもらお。みょうじは、浅いとこやなくて、深いとこがええな。そうぼんやりと思った。
「兄ちゃん!レンジャーのグミでもええ?」
「ええよ、今日のわたる、ええ働きをしてくれたし」
「やった!」
レジで支払いをしながら、次は中学ん時に初めて付き合うた女子に2週間でフラれた時のことを思い出した。実は何度も思い出すが、思いだす度フクザツな気分になるやつやから、もう思い出したくないんやけど。
『なんで他の子にも優しくすんねん!どうせ山田は私のことなんか好きやないんやろ!告ったんも私やしな、もうええよ!バイバイ!』
確かに告られて浮かれたし。そのテンションで付き合うたけども。でもこれから好きになってくれればええって言われたから努力してたんやけど。いやバイバイて。また急な。明日も廊下ですれ違うやろ。色々思いつつも、普通に頷く自分も居って、今思えばあのこの子の引き際は間違ってなかったんかもしれへん。
「兄ちゃん、聞いとる?」
「なに?」
「なまえちゃんとな、また遊ぶ約束したで」
「……誰と」
「ぼく」
「どういう関係性やねん」
「なに?関係性って」
「……わたるとみょうじの……なんや、友達なん?わたるとみょうじは」
「おん!友達!」
わたるのなんでなんで攻撃に立ち向かいながら家に帰ってスマホを見たらラインが2件きとって、1件目は友達やった。付き合うたってさ。驚いたやろって。悪いな、全然驚かへんかったわ。みょうじから聞いとったから。
2件目はみょうじからで、タップする前から2行ぐらい見えているところだけを読む。既読つけたないわけちゃうけど、なんか緊張する。
『今日はありがとう!めっちゃ楽しかった。
わたるくんとまた遊ぼうって約束したから、』
まーた絶妙なええとこで切れとる!そのままみょうじのメッセージをタップすると、追いかけた文字にびっくりやった。
『わたるくんとまた遊ぼうって約束したから、山田くんも一緒に3人で遊べたらいいな。いいかな?
そういえば、わたるくんにおうちのクリスマスパーティー誘われたよ。』
ぎょっとしてわたるを見ると、ぺりぺりとグミをシートから剥がしてる最中。スマホを何度か確認して隣に座ると、なにか言いそうな俺を見てわたるが不思議そうに待っている。
「わ、わたるさん……?みょうじ、クリスマスパーティー誘ったん?」
「せやで!今度、しょうたいじょう書くから兄ちゃん渡しといてな」
「えーと、来るて言うてたのかな?」
「うーん……何もないて言うてたよ。なまえちゃん」
わたるさん。それは来るとは言われてないと思うけど。友達はくっついたからもう一旦放っておこ。それよりこっちや。わたるの友達です〜ってオトンとオカンに言えばいいんか?イメージしてもみょうじなら難なく溶け込めそうではあるけども。
みょうじに最終確認するの俺やろ!招待状て!小学生ちゃうで、もう兄ちゃん高校生やで、わたる。渡せるかっ!
ぷにぷにのほっぺを見つめながら眉をしかめて少ない脳みそ使っとったら、わたるが俺の頭を心配そうに撫でて、別に怒ってへんけど即効で許したったわ。