信じてなかった訳やないけど、冗談とか適当やなかった。学校でもっかい聞いたら、みょうじは「遊ぶ約束したよ」って学校で言うてくれた。しかもめっちゃいい笑顔で。
でも、俺らには学校も部活もあるし、バイトもある。わたるは幼稚園も習い事もある。せやから、なかなかそれを叶えるんは難しかった。
「ただいまー」
「兄ちゃんおかえり〜!」
「みょうじから手紙預かってんで」
「ほんま!?ちょーだいちょーだい!」
部活が終わって家に帰るとドタドタと足音が近づくと共に、わたるが玄関まで出迎えに来てくれて、みょうじがわたるに付き合うてくれてるお手紙交換の手紙を渡した。暗号みたいなわたるの手紙に真剣にみょうじは返事をしてくれてるらしく、何気に何往復かこのお手紙交換は続いてた。それに、これのおかげでみょうじと話すことがめっちゃ増えたな。あと、あいつらが付き合ったのもデカいな。
「兄ちゃん、聞いてくれた?」
「なんやっけ?」
「クリスマスパーティー」
「あー…」
「まってて!」
リビングに駆けていったわたるを靴を脱いでゆっくり追うと、バタバタと足音が近付いて、ぼふっと俺にわたるが突進して、ぶつかった。顔を上げ、にっこにこで見せてきた紙には読めるか読めんか微妙なラインの字で『しょうたいじょう』と書いてあり、ついに書いたな。と心の中で腹をくくった。
「明日渡してな。約束やで!」
「……しゃーないなぁ」
かわいい弟の頼みやしな。渡すだけ渡してみるかぁ。筒抜けやからオトンもオカンも、最近みょうじのことやたら聞いてくるしな。
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「ほい、これ。わたるから」
「ありがとう。あ、今日は折り紙ちゃうんや」
そうか。いつも折り紙やったっけ。封筒に書かれた『しょうたいじょう』の文字を見て、そのあと俺を見て、戸惑うようにみょうじは笑った。ただ、嬉しそうにも見えたし、困ったように見えんわけでもない。いつもはせえへんけど、返事が必要やと思ったのかすぐに目の前で中身を出して手紙を読み始めたみょうじがくすくすと笑って、少し驚いて、また笑って。
なんやろ。なんか……ふわっふわしたできたての気持ちやけど。あ〜俺この子好きやわ、って思た。今まで接してきたひとつひとつが、なんかええなって思った。
「山田くん」
「なに?」
「山田くんとか、ご両親は迷惑やない?全然関係ない私がせっかくのパーティーにお邪魔して」
「邪魔ちゃうやろ。わたるの友達やろ、みょうじは。オトンもオカンも、よう知らんけどみょうじに興味津々やし」
あと、来てくれたら、俺も嬉しいし。そんなん言えへんけど、思うだけ思っていたら、みょうじは、楽しみやなぁ、ってWデートの約束ん時みたいに言うた。
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「お邪魔します」
「なまえちゃん!待ってたで!」
「わたるくん久しぶり〜!お手紙ありがとうな、招待状も、ありがとう!」
「どうしましまして!」
「わたるまた間違えとう〜、しましまちゃう!いたしま!」
わたるもみょうじの前ではすっかり恥ずかしがり屋ではなくなっとるな。
靴を揃えながらみょうじは笑って、コートを受け取って玄関に用意したハンガーにかけた。リビングでそわそわしとったオカンとオトンが、いつもよりひと回り大きなケーキと、いつもより多いフライドチキンを用意して待っていて、去年のクリスマスよりも色んな色があるテーブルの上を見てみょうじは「わあ」と声をあげた。
「あ、あの。みょうじなまえです。今日はお邪魔します」
「なまえちゃ……みょうじさん!待ってたで。外寒かったやろ。なんか温かいもの飲む?」
「あの、お構いなく、それよりお手伝いとか、」
「ええからええから!もう準備万端やから!早速始めよ!」
テンション上がりすぎなオカンがわたるの影響でみょうじを初っぱなからなまえちゃんて呼ぼうとしたり、オトンはなんや嬉しそうみょうじを見たり、わたるはわたるの隣の俺が座っとる席にみょうじを座らせて俺をお誕生日席に追いやるし。
……まあええか。みんな楽しそうやし。みょうじも笑てくれてるし。
「ではわたる、乾杯の合図をどうぞ〜」
「メリークリスマス!かんぱーいっ」
難なくすでに馴染みだしたみょうじが乾杯するんを見て、内心ほっとした。年に一度のクリスマスやし、未だによう考えたら不思議やけどせっかくうちに来てくれたんやし、楽しんでもらいたいよな。
「早速やけど、わたるくんにプレゼントがあります」
「プレゼント?」
「はい、どうぞ」
「わーい!ありがとう!」
「開けてみて。あ、でも大したものやないよ」
サンタクロースやクリスマスツリーの柄の大きな封筒を開くと、折り紙とお絵かき帳とシールがでてきて、わたるはきらきらした目でみょうじを見た。
「わたるくんお絵かき好きやって言うてたから。たくさんお絵かきしたら今度見せてな」
「わかった!」
オトンもオカンも、微笑ましさ全開の顔でそれを見とって、もちろんそれは俺もやけど。今確実にわかっとることは、ここにいるみょうじ以外のみんながみょうじがええ子やと同時に思ったっちゅーことやと思う。
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「ええの?入って」
「ええよ、片付けたから」
「それ普通言わんやつやろ」
可笑しそうにみょうじが俺の部屋に入り、ちょこんと遠慮がちな所に膝を抱えて座る。ごはんを早々に切り上げたわたるがこれからケーキ食べるってタイミングで座敷で寝てしまって、申し訳ないから帰ると言い出したみょうじをオカンが引き留めた。
『みょうじさん、ケーキ切ったから、食べてって。紅茶も今入ったとこやし。帰りはお兄ちゃんに送らせるから』
別に送るつもりやったけど、その言い方やと俺が思ってないみたいやんか、とわたるを布団に連れていったばかりのオカンに思った。
「せや、」
ケーキを食べ始めたばかりの手を止めたみょうじは、わたるのプレゼントを出した紙袋からもうひとつ包みを出して、恥ずかしそうに俺に差し出す。何度も言うけど、やっぱり心臓がぎゅん!てなった。
「山田くんにも、プレゼント。開けてみて」
「……お、俺ももらってええの?」
「なに言うてんの。もらってくれへんかったら、悲しいわ」
包みを開きながら、内側からふわふわとした感触がする、と思う。なんやろ。マフラーにしては小さいし。
「……手袋や」
「朝いつも手すりすりしてるやろ、山田くん」
「え、してる?」
「してるよ」
あかんて。こんなの期待する。ありがとうてお礼言わないけないのに、それより先に言いそうになる。俺、こんな気持ちになったん、初めてや。
「俺も、プレゼントあんねん」
びっくりするみょうじに、部屋の隅に置いといたラッピングされたプレゼントを持ってきて差し出すと、ありがとう、と感動したみたいに受け取ってくれる。
わくわくというよりも、もらってええのか迷ってるみたいな表情でゆっくりリボンを解く。一瞬よぎったあいつらも、プレゼントを交換したんかな。
「……山田くん、知ってたん?」
「せやで、って言いたいとこやけど。実は、わたるが教えてくれた。なまえちゃんマフラーほどけたんやって、って。手紙に書いたやろ、みょうじ」
「……書いた」
「おん。だからこれは、わたると俺からのプレゼント」
「そうなんや……ありがとう」
「みょうじ。ケーキ食べてはよ帰らな、親心配すんで」
「そやね」
さっさとケーキを食べ終えみょうじは玄関でコートを着て、早速嬉しそうにマフラーを巻いた。オカンとオトンは出迎えをしなかったからこのマフラーが俺とわたるからのプレゼントやってことは知らないし、俺のコートのポケットに突っ込まれた手袋がみょうじにもらったものなのも気づかない。
ただ、また遊びに来てな、とめっちゃ良い笑顔でみょうじに手を振るばかりやった。