角名倫太郎と夜道
近所のスーパーの明かりはひとつ残らず消えていて、道路脇の街頭に照らされていない所は真っ暗だ。ゆったりとした足取りで歩く倫太郎となまえは歩道を広々と占領し、誰もいない道と暗闇を楽しんでいる。
「なんか、この道に誰もいないの新鮮やなぁ」
「今2時だからね」
「みんなもう寝てるんかな」
「……じゃない?俺たちも普段は寝てる時間じゃん」
車もほとんどなく、もちろんバイクも自転車も、普通に歩いている人もいない。倫太郎が連休なのをいいことに夕飯時を過ぎてから飲みに出掛け、駅前の飲み屋でぐだぐだと記憶に残らない会話を肴にグラスを傾け続けた結果、気付けばもう夜は完全に更けていた。
「コンビニ寄ろ〜、アイス買いたい」
「えー、さっさと帰ってチューペット食べたいんだけど」
「私はバニラアイスがええもん」
口を尖らせるなまえにそろそろと距離を縮め、倫太郎が落ち着き払った様子で顔を覗き込んでから前を向く。倫太郎の不可解な行動になまえはふざけて当てるだけのパンチを繰り出せば、パンチができないまま倫太郎の手に包まれる。堂々といい大人がこんな風にふざけられるのは、きっと深夜のせいだった。シルエットだけ見えていれば、高校生のようなやりとりに思われるかもしれない。二人は昔を思い出すように、指を絡ませた。
コンビニの光が煌々とする方へなまえが倫太郎をぐいぐいと体でわざと押すと、倫太郎は諦めたように爪先をコンビニへ向けた。バニラアイスを買って、家に帰って、二人でそれぞれの締めのデザートを食べて、さっさと寝よう。そう思いながら。
「りーんー」
「んー?」
「セロリの浅漬けってさー、家で作れるんかな」
「…なまえ、そもそもセロリ買ったことあるっけ」
「……ないなぁ」
大して会話をするわけでもない。なまえはセロリを生まれてこの方買ったことはないのなんか本人は一ミリも考えになくって、スーパーで普通に売ってるのかもそれを言われてから考えていた。
コンビニの自動ドアが開き、スーパーで買えば100円のアイスを130円代で売っているラインナップから選んでいる自分に若干の罪悪感を抱きつつ、カップのバニラアイスを選んだ。コンビニのオリジナルブランドの、お手頃なやつを。
どうやらお疲れの様子の派手な髪色の店員さんにレジを打ってもらい、アイスの入った袋をぶら下げて二人は今度こそ帰路についた。一旦離れていた手を、えいっとなまえが捕まえてほんのりと笑ったその顔に倫太郎も堪らず口角をあげる。
「たまには外で夜更かしもええね」
「なまえがべろべろに酔っぱらっても、この距離なら難なく帰れるし」
「倫太郎ひどい〜、べろべろに酔っぱらったことないやん」
コンビニの袋がカサカサと音を立てる。なまえは文句のようなものを口にしつつ、実は楽しんでいた。互いにあっという間に変わる日常の中で、高校から変わっていないのは倫太郎となまえの関係だった。夫婦だけれど、青い関係。ラブラブではないけれど、そっと自然と触れあっているような。
「お風呂沸かす?」
「シャワーでいいんじゃない」
「せやなぁ、はよ寝たいし」
大きなあくびをしたなまえを見て静かに笑った倫太郎が、つられて大きなあくびをする。うつってる〜、とあくびのせいで出た涙を浮かべながら笑い返したなまえがそのまま前に進むと、倫太郎がなまえにぴったりとくっつきながら進路方向を変えさせた。コンビニへ寄らせようとしたなまえがさっきやったやつだ。
「あなたの家はこっちですよ〜」
「わ〜間違えた〜」
けたけたと笑うなまえは足取りはしっかりしているもののやっぱり少し酔っている、と倫太郎はそっと思った。明日は二日酔いにならなければいいけど。他にも出掛けたいところあるんだけどな。明日は昼から出掛ければいいか、とも。
「もうつくよ〜」
「うん、鍵貸して」
「はーい」
ここだけの話だ。もう決まっていることがある。
明日のお寝坊さんリストの中に、実はこの二人も当然含まれている。そして間違いなく、お出掛けは昼以降になることも、もう決定事項だったりする。