高校生のあれこれ グサグサと刺さる視線の先っぽは多分矢印みたいに尖っている。理由はすでにわかっていた。昨日の夜に一緒に行動するクラスメイトからメールをもらっていたからだ。
『びっくりやねんけど!変な写真回ってきたで!今日、稲高生に写真撮られなかった?侑くんと居った時、2人ともジャージやから部活の後やろ?』
幸か不幸か、私のクラスには渦中の宮くんではないもう一人の宮くん、治くんがいる。試合を見に行った時に最前列で黄色い声を出していた派手な先輩がクラスを覗き、私を見てコソコソと何か言っている。
友達がわざと治くんを巻き込んで話をしている雰囲気を無理くり出してくれているお陰で呼び出されたりすることはないものの、視線が痛い。なんなら、治くんまで近くに置きやがってと思われていてもおかしくない。
「なまえ大丈夫なん?大ごとになってるけど」
「俺も付き合うてるんか聞かれたで、朝知らん女子に」
「…俺も。彼女がみょうじのこと心配してた」
友達にも治くんにも角名くんにも迷惑をかけていたのだと知ると、あのときの自分が帰ってきたみたいに、気づかない間に引っ掻き傷を作ったようにひりひりとどこかが痛んだ。やっぱり私は、最後の一歩を踏み出すことはできないかもしれない。知らぬ間につけていた仮面を剥がされたような感覚がした。
応援にも行かない……正確には行けない、ダンス部の中でも地味なのがぽっと出てきたら、そりゃ煙たがられるのも頷ける。ずっと応援していたのに、ずっとタイミングを狙っていたのに、と思うのも無理はない。
「おはようさーん」
侑くんがご機嫌でやってきて、私は思わず目をそらした。教科書を借りるでもなく、用があるでもなく、ただ喋りにきたのはすぐにわかって。ピタッと侑くんが足を止めたのに気付いたものの、写真が回ってるのは知らないようだった。
「え?なんなん?この不穏な空気」
「アホツムが来た」
「ふーん、逆に侑には回らないわけね」
この輪の中にいる人は、誰も悪いことをしてない。侑くんも、間違いなく被害者なのだ。
友達が侑くんに写真を見せると、なんやこれ、と怒りのこもった声で言い、私の逸らす視線の先に移動してきた。
「なまえ?」
「…侑くんは気にせんでええから」
「は、ってなに。ちゃんとこっち向いて言うてや」
「私は平気やし、」
こんな時、思う。息をするように嘘をつけたらよかったのに、って。すぐにそらした侑くんとの視線をまた交わらせることはもうできなかった。侑くんがどんな顔をしてたか想像することもできなかった。予鈴が鳴り、侑くんは2組に戻っていった。
治くんは私のことを心配してくれているみたいで、今日は休み時間ごとにこの辺に居とき、と言ってくれ、先生が現れると私も友達も自分の席に戻った。
そして今日起きることはこれだけに留まらない。侑くんと私が写真を撮られたのを塗り替えるくらいの大イベントが稲高に起きるのだ。
▽ △ ▽ △
登場したばかりの担任の先生の様子がご機嫌というか、言いたくてたまらない隠し事をしてる感じだった。
「みなさん、今日は特別講師の先生が来てくれてます」
なんの前触れもなく、突然に口にされた特別講師という言葉に皆そわそわとし始めた。急すぎてなんの見当もないけれど、この時各々に心臓がバクバクだったと思う。
「どーもーW6でーす!」
「どうも〜!こんにちは〜!」
ガラッと勢いよく開いた扉から現れた2人に、キャー!と回りから黄色い声が上がり、泣き出す子もいる。私はびっくりしすぎて固まった。夕飯時、毎週やっている高校生の出る番組で司会をやっている有名なアイドルグループのうちの2人がさわやかな笑顔で目の前に現れた。
「関西の高校生、元気いいな〜」
「今日はみなさんに、お願いがあってきました!」
「みんなは知ってるかなぁ。高校生の主張っていう……」
またキャー!と黄色い声と、爆笑しながら手を叩く音と、知ってるー!と楽しそうに返事をする声が響く。
それは全国の学生が、いや、お父さんお母さんも知っている番組のコーナーで、屋上から生徒が伝えたいことを叫び、主張するというもの。ばっちりテレビにうつるとなれば目立ちたがりのクラスメイト数人は楽しそうに主張したいことを廊下でW6のメンバーに伝える。
席の近い男子が廊下から戻ってくると、選ばれたら後でお願いされるらしいで、と期待混じりに言っていた。
今日の授業はみんな聞いてるようで聞いていない状態。なんなら聞いていないと言い切った方が良いかもしれない。4時間目、テレビで見ていたコーナーを目の前にするんだから、こんなことは人生であるかないか。
高校生じゃなかったら遭遇することの出来ない非現実的な大イベント。私は制服をなびかせ屋上に立つわけではないけれど、もしかしたら「な〜にぃ〜!」とみんなで言った瞬間にちらっとテレビに写る可能性はあるかもしれない。