呪いはどっちだ「なまえいた!こっちこっち!」
「えっ、私は1番前やなくてもええねんけど」
「まーまー!ええからええから」
「でも、後ろで見れるで。そっち目立つし、」
きたる4時間目。私は最前列を陣取ったダンス部の同級生になぜかひっぱられ、かなり目立つところにいた。これはまた、校舎に近いだけあって首が痛い。なんたって屋上をずっと見上げて主張を聞くわけだから。
ざわざわ、わいわい、がやがや。どれも当てはまる状況。あとは2組の子を中心になんだか様子がいつもと違う気がする。すでに首が痛くなってきて、ダンス部の子たちと話していると、キャー!と聞き覚えのある黄色い声が沢山上がり、一様に上を見上げる。私もつられるように上を見ると、W6の2人がマイクを持って手を振っていて、高校生の主張の始まりを告げた。
2人が引っ込むと、恐らく1年生らしき子が出てきて、早速主張が始まる。
「今日は〜!この場を借りて〜!現国の鈴木先生に言いたいことがあります〜!」
「「「な〜にぃ〜?」」」
「鈴木先生〜!怒らないで聞いてくれますか〜〜!」
「はーーい、怒りませーーん」
ちょっと厳しい現国の鈴木先生は、私も1年の頃に授業してもらっていた先生だ。振り返って後ろに立っていた先生を見ると、怒らないと約束するように精一杯の大きな声で返事をした。
「鈴木先生は黒板に板書するのが早いけどーー……字が汚くて読めませーーーん!!!」
みんなが心の中で思っていた主張に生徒達が爆笑すると、鈴木先生は恥ずかしそうに頭を抱える。
「次から出来るだけ綺麗に書きまーーーーす!!!」
「ありがとうございまーーーす!!!」
どかっと笑いが起こる中、疲れてきた首の後ろをじんじんさせながらなんとなく思ったことは、こういうのめっちゃ青春やなぁ、って。今しか出来へんけど、私には出来へんなぁって。普通に楽しくけらけら笑っていた。
▽ △ ▽ △
「そろそろちゃう?」
「多分な」
「……誰か知ってる子出るん?」
もう何人かの主張を終えたころ、ダンス部の子らがさらにそわそわし出だした。でも、私には詳しいことをなに一つ教えてくれない。
「「「キャー!」」」
「うそ!あれ侑くん!?」
W6が出たんと同じくらい黄色い声が上がると、まわりが口々に侑くんの名前を出して顔を上げたら、屋上には侑くんが居って。ぽかんと固まり、侑くんは主張とかするタイプやったっけ……と思った。私の知ってる侑くんは、バレーが上手くて、顔がかっこよくて、すごくモテて、でも普通の高校生で、ちょっと子供っぽいところもあって。一番最後に思い浮かんだそれを思えば、無くもないかとも思って。
「2年2組〜〜〜!宮侑〜〜〜!」
「キャーーー!!!」
「なまえ、ほら上見て。よう聞いとき」
「え?なに?ど、どういうこと…?」
「俺には〜〜〜大好きな子が居る〜〜〜!」
「「「だ〜れ〜!」」」
私がぐいぐいと前に連れてこられた理由も、侑くんがあそこに居る理由も、その一言で私は理解した。しようとする前に理解せざるを得なかった。この状況は、もう。侑くんが出てきたときは向いていなかった回りの視線が私へ集中する。侑くんはまだなにも言うてないのに。その、一生懸命な侑くんの口から、私の名前が出てくることを願っていた自分がいた。取られた仮面を失くしても、ほんの僅かでも私は強くなっていたのかもしれない。それはもちろん、侑くんのおかげで。
「2年1組〜〜〜!!!みょうじなまえさーーーん!!!」
「キャ〜〜!!!」
回りの子らはぴょんぴょんと跳ね、テレビで見た頃あるやつや〜!なんて喜んで。私は視線を上げっぱなしだった。首が痛いのなんて忘れるほどに、侑くんを見つめる。真剣な表情が私にだけ向いていて、それはそらしてはいけないような、そらせないような、そんな不思議な気分だった。
「なまえ〜〜!……なまえがダンスしてるとこを文化祭で初めて見てからー!なまえのことが気になりだしてー!気づいたら可愛いとこいっぱい見つけてもうてー!……気づいたらめっちゃ好きになってました〜〜〜!!!」
「キャーーー!!!」
気になっていたけど、知らなかったきっかけを、私はここで初めて知る。私は侑くんの試合をみたことは無いに等しかったし、侑くんはダンス部の発表をみたことなんて無いんだと思っていた。だから、なんで私のこと知ってるんかなって、治くんとよう話すからかなって、言葉にしなくてもずっと、不思議なままだった。
「俺と付き合ってーーー!!!」
注がれる視線。期待混じりの空気。悩むでもなく、答えはひとつ。まわりにどう思われても、それでもいいと思えた。ぎゅっと拳を作って、侑くんを見て。一旦ぎゅっと口を結んで、もう一度口を開いた。
「私も侑くんのこと、めっちゃ好き〜〜〜!!!……よろしくお願いしま〜〜〜す!!!」
大声を出したからか、告白の返事をしたからか、私の顔は真っ赤だったと思う。覚悟なんていらん。好きか嫌いか、付き合うか付き合わないか、友達か、恋人か。私は回りのダンス部の友達に囲まれて、ぎゅうぎゅうと抱き締められた。
「なまえおめでと〜!」
「侑くんやるなぁー」
みんなにお祝いをされていたら、侑くんは屋上から消えていて、数十秒後にはローファーをつっかけたままで校庭に下り、膝に手を置いて肩で息をしていた。
目が合ってすぐ、私の手を掴んでぐいぐいと引っ張られると、がらんとした校舎の下駄箱に入る。回りはみんな悲鳴のような黄色い声をあげていたけれど、世界は2人しかいないようだった。全力疾走したのか、侑くんは息を切らしていて、肩を上下に揺らしている。
「……侑くん、ええの?」
「……?」
「すぐこっちきて。パターン的にはW6と感動のシーンやろ?」
「……あかん、W6振り切って来てもうたわ」
「あはは!上で困ってるで、きっと」
堪らず笑えば、侑くんと視線が絡んで、大きな手のひらにほっぺたが包まれ、息を切らしたままの侑くんの唇が重なった。離れたと思ったら今度はすぐにぎゅうっと抱き締められて、なんのためらいもなく私も侑くんの背中に手を回した。
「なまえ〜好きや〜、めっちゃ好き」
「…私も侑くんのことめっちゃ好き……ほんまに、ありがとう」
ここに居るみんなが高校生だ。それは私も、侑くんも、みんな同じ、部活や勉強や全てのことをフラットにしたら、等しくなる。
青春ってその中にいるときは長くて、一生みたいに思うけれど、親とかは一瞬やって言うて。今はこの世界が全てやけど。これから大人になったらもっと世界は広くなってくんやと思う。
一生、それを口にするにはまだ私たちは青い。一生一緒にいようなんて約束はなくても、この瞬間は私や、もしかしたら侑くんにとっても永遠の記憶になるかもしれない。
これはきっと、呪いだ。呪いのようにこの瞬間を思い出して、青春を振り返る。
そう、これは間違いなく、青春の呪いだ。