青春の巻き添え いつだかにバレー応援に行ったクラスメイトが、半端じゃない軍勢の応援団の写真を見せてくれた。声援や勢いがすごすぎて反対側から俯瞰で稲荷崎カラーに染まった観客席を撮りたくなったらしい。
「圧巻やなぁ」
「せやろ。味方やのに押し潰されるかと思ったわ」
「さすが強豪やわ」
「でな。これはさすがに知っとるやろ?」
「……あ。宮くんやん。月刊バリーボール?」
「なまえ、侑くんが前に月バリで特集組まれたん知らんの?」
「おん。全然知らんかったよ」
「これでまた他校のファンも増えたらしいで」
「ふーん」
もちろんかっこいいし、明るいし、モテるのはわかる、けど。熱弁するクラスメイトの話を上の空で聞くと思う。なんや雲の上の存在って感じやな、と。なぜか治くんにはそう思わないけれど、やっぱり侑くんは私のイメージは謎が多い。
あの、体育館の入り口での出来事。あの後にダンス部の仲間に言われた。どうする?告白されたら!なんて。されへんと思うけど、もしされたらどうしようと家に帰って一応考えてみたのだ。
考えずともわかるのは、嫌いではないけどすごく好きかと聞かれればそれもどうだか。好きではあるけどライクの方。絶対にラブじゃない。なんせ最近話し始めた仲なのだから。
しかも侑くんは安易に付き合うには実にリスクのある男子だと思う。ファンという存在が堂々と後ろにいるわけで、学園ドラマばりの逆恨みにでもあったらと思うとそれも怖い。
そもそもまず、告白もされてない私が勝手にこんなことを考えるのは侑くんに失礼かもしれない。そう思ったところで思考を止めたんだった。
▽ △ ▽ △
……ない、ない。ない!
どうしよ。体操着の長袖忘れた。風がピューピュー吹く窓の外を見てからまわりを見ても、みんなこれから長袖を着たり既に着ていたり、とりあえず貸してくれる人はいないのはわかる。
「あれ?なまえ半袖やん。長袖は?」
「私アホや〜〜忘れた〜〜」
「ヤバいやん!誰かに借りてきた方がええで、絶対風邪ひくわ」
「ゴメン先行っといて」
本当はこういうの苦手。でも風邪はひきたくない。部活休みたくないし。更衣室から近いクラスは2組だ。ダンス部の子がいるから持ってないか聞いてみよう。
いつも賑やかな教室が静かなのは近づくごとにわかる。冷えていく腕をさすりながら3組も見てみるかと思った矢先に、教室から出てきた侑くんとばったり出くわした。
「おお!」
「わ!」
「みょうじさんや。どしたん?てか寒そ!風邪ひくで!」
「うちの部の誰かに長袖借りようと思ったんやけど……」
「あ〜……今誰も居れへんで?俺最後やから」
「したら3組あたってくる。ありがとう宮くん」
「……あ!待って」
「なに?」
教室に入り、ロッカーに突っ込まれた長袖を出してきた侑くんが大きな歩幅で廊下へ戻り、歩きながらさっと畳んだ長袖ジャージを私に抱えさせた。
「みょうじさんに風邪ひかれたないねん。一応持ってってええから。誰も居らへんかった時着てな」
「……ええの?」
「ええよ、ちゃんと返してな」
「わ、私パクらへんし!」
「冗談や」
けらけらと笑いながら、じゃあ行くわ、と手を振った侑くんに、この時私は初めて手を振り返した。そして、侑くんがなんだか嬉しそうにしたのを見て、治くんもかっこいいし良い人やけど、侑くんもかっこいいし良い人やなんて周知の事実を今さらになって思った。
次に向かった3組で友達から無事に体操着を借りた私は、侑くんから借りた体操着を抱えたまま校庭へ向かう。ギリ間に合ったと思ったら、やたらに大きい体操着を持った私を見て友達が不思議そうに言った。
「2枚は着られへんと思うで」
「……これ?ちゃうねん、色々あってん」
「そのサイズ感、さては男子借りたんやろ〜このモテ子が!」
彼氏も居なければ、モテた記憶なんてこれっぽっちもない。誰に言うてんのと思いながら、刺繍された「宮」の文字を内側にして畳んでベンチの上に置いた。気付かれたら冷やかされるのは間違いない。ましてや侑くんから借りた体操着なのだから、冷やかされるで済むとは限らない。
それと、大事なことがひとつ。私は男子に体操着を借りたのは今回が初めてだった。
体育の授業が終わり、先に校舎に入っていく男子の集団の一人が私がベンチに置いた体操着を見て何気なく手に取った。な、え、うそやろ!あかんて!どうしよ!畳んである体操着を広げた後、顔を上げて男子は声を出した。
「治〜、体操着忘れて……いや着てるし!」
「なんで俺やねん。名前あるやろ」
「ほれ。宮て書いてあるで」
治くんは怪訝な表情で、たまたま目のあった私が慌てる表情をしたのを見て、びっくりしたあといつも通りの表情に戻り体操着を受け取った。
「やっぱそれ俺のやった」
「なんなんそれ〜忘れんなや〜」
笑われる治くんの顔には、この借りは絶対返せよとでも書いてあるように見え、心の中で治くんに向かって手を合わせた。仏を目の前にしたかのように。