神様、仏様、治様 チャイムと同時に購買にダッシュで向かったのは、入学してから初めてのことだった。幻のメロンパンのラスト1つをゲットした私は、自販機で飲み物を買って教室に戻る。達成感が半端じゃない。もうあのもみくちゃゾーンに行くのはこりごりだけど。
いつもお弁当だけでは足りないと途中のコンビニでパンなどを買っているらしい治くんの元へ直行すると、幻のメロンパンを献上した。治くんほど会話をしたことがない角名くんは、事情を聞いているのか不気味な笑顔で私を見ている。
「先程は大変助かりました。神様仏様治様。これを……」
「幻のメロンパンや…!よく買えたな」
「ダッシュでラス1やった」
「交換成立やな」
「ふっ……なにこの物々交換」
治くんの鞄に突っ込まれた侑くんのジャージを受け取ると、それはもう、安堵した。なぜかため息がでるくらい。ちょうど大きなお弁当を空っぽにしていた治くんは、早速私の食べたことのない幻のメロンパンの袋を開けると、大きな一口分ほどをちぎって、ほれ、と私の手に乗せた。
「なん、……うんま!」
「ご苦労さん」
「んんんん〜、……早速これ返してくる!」
「はいはい」
…………
「今みょうじなんて言った?」
「ありがと〜ちゃうの?」
「……よくわかったね」
「間違うとる可能性もあるけどな」
私の背を見ながら二人がそんな会話をしてるとは露知らず、私は早速2組へと向かう。後ろの扉から覗くと、侑くんは近くに座る男子と楽しそうに話していた。やっぱりこうやって見ると侑くんは雲の上の存在なんかじゃなくて普通の高校生だなんてふと思いながら、前の扉の方へ移動した。気づけ〜気づけ〜と念を送っていると、口を開けて笑う侑くんがこちらを向いた。ちょいちょいと手招きをすると、きょとんとした表情でこちらにやってくる。
「借りれたよ3組の子に」
「お〜、ほんなら良かった」
「でもな、だれも貸してくれへんかったらどうしよ〜ってそわそわしてたから。やからほんまにありがとう」
「……こんなよう喋るみょうじさん初めてかもしれん」
「そう?」
「おん、イメージ変わるなぁ」
「そもそも宮くんの中に私のイメージあったんや」
「あったあった、当たり前やん」
「……」
「……」
「……そうなんや」
「なんやサムの言う通りすぎて腹立つわ」
「……誰に?」
「そりゃサムやろ。みょうじさんはなんて返そーて考えとる時の時間が人より長い言うてたけどホンマやった」
「そ、そう……ですか?」
急に敬語やし!とさっき見たばかりの笑顔で言われると、さっきの校庭での話をするか迷う。でもあれを言ったからといって侑くんは何一つ悪くないし、逆に気を使わせてしまうかもしれない。目立たないように念力で侑くんを呼び寄せたのに、うっかり長話をしてしまった。侑くんだって話し中だったのを思い出して体操着を侑くんに返すと、お礼を言った。
「次からは忘れんように気を付ける。侑くんに迷惑かけられへんし」
「……あ!侑くんて言うてくれた!」
「……ごめん、間違えた」
「いやいや間違うてへんし。サムだけずるいやん」
「ずるいんかな?」
「せや。もう一回呼んでみて」
「嫌や〜逆に言いづらい」
「なんで〜!言うてよ!」
治くんは気づいたら治くんだったけど、侑くんは気づいたら宮くんだった。あと、心の中では気づいたら最初から侑くんだったか。友達が友達の友達のことをあだ名で呼び続けて話をされたら気づいたら自分も仲良くないのに本人が居ないときに呼んでたら的なことかも、多分。……あかん。自分でも頭ん中ややこしなってきたな。
▽ △ ▽ △
「ツムのせいでアホやと思われたわ」
ジャージに着替えるサムがこの上なくだるそうにそう言った。俺のせいってなんやねん。身に覚えのないぼやきに、なんのことや、とわけわからんまま言うと、ジャージのチャックを絞めながら俺を呆れたように見た。
「トボけんなや。みょうじにジャージ貸したやろ」
「は!?みょうじさんが着てへん言うてたのになんで知ってんねん!」
「みょうじが気ぃ使って言わんかったてことか」
1組の体育でのことを聞き、困る表情のみょうじさんが浮かぶ。それはそれでクるな〜と思ったあと、ダンス部の中ではおとなしい方のみょうじさんの性格を思うと、ずーんと頭が重くなる。
「マジか〜余計なお世話やったんかな〜〜」
「知らん。まぁええんちゃう。お陰で俺は幻のメロンパン食えたしな」
突然のメロンパンの発言は置いといて。最近めちゃめちゃ気になるみょうじさんとまともに話したんを思い出すとニヤけそうになる。
「あかーん!羨ましい〜〜サムええな〜〜みょうじさん見放題やろ!?せや!こっそり入れ替わるか!」
「俺になんのメリットがあんねん」
「アホなこと言わんと、早よ体育館行ってストレッチせぇ」
シューズを持った北さんの一言に慌ててシューズを持ったのは、俺らだけやない。薄ら笑いでロッカーに寄りかかってた角名もや。