ちちんぷいぷい

 ハンバーガーを美味しそうに頬張る侑くんと、奢ってもらったポテトを食べる私。学校の子が見たら、意外な組み合わせだと思われるのは明白だ。

「ずっと気になってたんやけど」
「おん、なに?」
「いや、でも全然大したことじゃないんやけど」
「なんなん」

 まどろっこしい言い方をしていると、侑くんがけらけらと笑って、食べきったハンバーガーの包みをくしゃくしゃと丸めた。ストローに口をつけてジュースを飲む姿さえ絵になるのだから、侑くんは相当なイケメンだと思う。普段から治くんで耐性がついているせいかあまり気付かないけど、うん、やっぱりイケメンだ。

「この間の調理実習、他のクラスの子からマフィンもらったん?」
「え?気になるん?」
「……いや、そういうんちゃうよ。ぎょうさんもらったんかなって興味あるだけやで。バレンタインの個数を競うみたいなもん」
「必死やん、なまえちゃん」
「必死ちゃうし」

 斜め上をみて思い出す侑くんが言う。「もらったんも、あげたんも、なまえちゃんだけやわ」って。なんで?なんて聞くわけでもなく、しなびてきたポテトを持ったままびっくりしていると侑くんがしびれを切らしたみたいに言うた。

「なぁ」
「……なに?」
「今のはなまえちゃんがなんで?って小動物みたいな顔で聞くとこやったわ」
「小動物?どーゆーこと…?」
「…そこはな、掘り下げんでええねん。ていうか俺はサムみたいに食い意地張ってへんし。まぁサムも大食いなわけちゃうけど」
「え、治くん大食いやろ?」
「まぁ常々食い物のことは考えとるけどな」

 結局のところ、侑くんとの共通の話題は治くんのことが一番多かった。いつからダンスやってんのとか、バレー部休みあんのとか。そんな話をちょこちょことしていると、お互いの知らない事を知っていく。パズルのピースをはめるように、そこにしか当てはまらないピースがはまっていく。

「なまえちゃんて、俺らの試合見に来たことある?」
「あったらもうちょっとキャーキャーしてたかな」
「ぶっ!……笑かすタイミングちゃう!」
「別に狙ってへんよ」

 楽しい。時々お腹よじれるかと思うくらい。くくく、と笑い合って、思った。
 やっぱり治くんとは違う。かっこええけど、かっこええの種類が。治くんより喋るから引っ張られていくっていうか、気づいたらおしゃべりになってるいうか。シェイクがズルズルと音を立て、思った。失敗したな、より喉乾いてきたわ。

 背もたれに寄りかかり、残ったポテトを食べる侑くんと目が合うと「なー」とテーブルに肘をついて言われる。なーって言われる時、大抵度肝を抜かれることに気付きだした私は、心の中で身構えた。

「来月試合あんねんけど、来れたら来てよ」
「タイミングがなぁ…」
「チアはいつもおるけど、ダンス部は居らん?よな?」
「チアと吹奏楽って応援の要やろ。ダンス部は結構大会とか被ってて行けへんねん。行ける日もあったりはするんやけど、ぱっと行って一体感壊したないなとか思うやん」
「ええやん。静かに俺のこと見とってよ」
「あはは、なにそれ」
「……」
「……本気で言うてる?」
「おん」
「……何日?」

 スケジュール帳を開くと、言われた日を確認する。1回目の試合は無理だったけど、2回目の試合は部活がないし、予定もなかった。

 スマホを見ながら日程を言った侑くんは私の言葉を聞き「初戦勝つから、絶対」とやる気に満ちた顔をした。ついでにみたいに連絡先を聞かれ、2年目のガラケーのアドレスと電話番号を教える。
 ライン?とかやってる子は既読がなんちゃらとよく言っているけど、きっとそんな会話をするのはまだ先になるだろうな。侑くんもやってるんやろな、ライン。

「サムとはメールしたりすんの?」
「しないよ、そもそもできへんから」
「なんで?」
「治くんのアドレス知らんし」
「……そうなん!?」

 きらっきらした目でぐっとさらに近づかれ、背もたれに背中を預ける。私はどこへ向かっているんだろう。おまじないをかけられたように、のろいをかけられたように、手を引かれていくような感じがする。

「なー」
「……なに?」
「初戦終わったら、電話してええ?」
「嫌」
「……即答やん」
「緊張するやろ。電話。結果報告ならメールでええよ」
「メールなんて味気ないやろ」
「こっちはメールか電話しかないんやけど」
「すごいな!おめでとう!て言われたいやん!」
「聞いとる?ていうかめっちゃ言われるやろ、当日」
「ちゃうねん。なまえちゃんに言われたいから電話すんねん」

 何度も思った。侑くんて、私のこと好きなん?って。何度も何度も。そうして自然と侑くんのことを考えさせられ、侑くんがしょっちゅう私に声をかけ、また何度も思ったことを改めて思い、ほぼほぼ確定した。多分侑くん、私のこと好きやなって。自惚れやと何度も思ったけど。多分、自惚れちゃう。

 極端なことだけど。私がもしも告白されたら。ハイかゴメンナサイ、そのどっちか。残すは至極単純なそれだけのことだ。その答えは現段階では決まっているけど、もしかしたらこの先変わるんだろうか。
 侑くんのことなんて気にしてなかったあの頃に比べれば、きっと……いや、でもまだ。初めての彼氏が侑くんなんて、私にはハードル高すぎるって。