今夜はとくべつ「なまえんち、今日カレーか」
「あ。鉄朗も買い物?」
買い物かごを覗き込んでそう言ったのは鉄朗だった。じゃが芋、にんじん、玉ねぎ、鶏もも、カレールー。これを見て一番に思い付くのはカレー以外にはない。
「買いすぎじゃね?」
「玉ねぎ全然ないの、今。大袋の方が安いからね」
「なまえ、母ちゃんかよ」
「どこが。タメの女子に向かって失礼な」
鉄朗はおつかいではなさそうだ。スポーツドリンクの粉末を2袋。まって。なにこの重量の差。
根菜ってなんでこんな重いの。時間がたつごとにずっしりしてきているような。片手で持っていた買い物かごを、両手で持ち直した。
「で?何で来てんの?」
「歩きだけど……あ」
言われて気づいた。そうだ、歩きだわ。帰り道のことを考えているのが悟られたらしく、げんなりした顔を見た鉄朗がケラケラ笑った。
「乗せてってやるよ」
「鉄朗自転車なの?」
「そ。貸し1つな」
正直とっても助かる。手のひらがじーんとして、一度買い物かごを下に置くと、鉄朗が空いている手でかごを持ってくれた。そういう意味で置いた訳じゃなかったけど、ここは甘えることにしよう。
お会計を済ませて外に出ると、鉄朗の家の自転車置き場にいつもあるママチャリが停めてあった。中身のつまったビニール袋を前のかごに入れて、鉄朗がサドルに座ったのを確認してから荷台に手をかける。
「ほんとに乗るよ?重いよ?」
「平気だろ。なまえ、研磨より軽そうだし」
「研磨くんって何キロぐらい?」
「知らねぇ」
基準がアバウトすぎる。恐る恐る荷台に座ると、スカートをおしりの下に挟み、鉄朗の背中に遠慮がちに掴まった。やっぱなまえの方が軽い、そう言ってペダルを漕ぎ始めた鉄朗の背中は、前に一度だけ2人乗りをした時よりも大きくなっていた。
「そういえばなまえ、彼氏と別れた?」
「……なんで鉄朗に情報が流れてるの」
「なまえの母さんにこないだ会って、鉄朗くんが付き合ってくれれば家も近いし安心なのに〜って言われたから」
「なんで親って近場で済ませようとするんだろうね」
「俺は構わないけど」
「……まぁ鉄朗は浮気しないからいっか」
「え、そこで判断すんの?」
「めちゃくちゃ重要だし」
しばしの沈黙が流れる。もちろん安易に鉄朗と付き合う訳じゃない。冗談だ。お母さんめ、その様子じゃ彼氏ができてすぐ近所に言いふらしたな。そんなことを考えているうちに、もうすぐデコボコ道だ。なんてタイミングの悪いこと。密着しないで落ちるより、密着して落ちないで勘違いされた方がマシだとぎゅっと鉄朗の腰に捕まると、鉄朗は振り返って私の表情を確認した。
「なんつー顔してんだ」
「うっさい」
「何。元彼、浮気したの?」
「そーだよ。でも親にそんなこと言えないよ」
「見る目ねーな。なまえ、可愛いとこあんのに」
鉄朗のテンションや声のトーンでいつもは大体わかるのに、今回は本気か冗談か聞き分けがつかなかった。でこぼこ道が過ぎて鉄朗の腰に回した手を緩めると、どこかの家からカレーの匂いがする。
「さっきの家、カレーだな」
「人が作るカレーって美味しいよね」
「なまえも食べれんじゃん」
「違うよ、これから自分で作るから」
「親は?」
「パートでちょっと遅くなるって言ってたよ」
「よし。今からなまえのカレー食べに行くかー」
「あ。もう貸し使うの?」
「なにー?全然聞こえませーん」
鉄朗がわざとゆるーく蛇行し始めると、バランスが取りづらくなり、鉄朗の腰にまた手を回した。声を出して笑う鉄朗に呆れるものの、憎めないのが正直なところだ。
お母さんの見立てはあながち間違っていないかもしれない。好きとか、ときめきとか、まだ全然そんな段階じゃないけど、居心地は最高だ。
続くゆるい蛇行に慣れてきても、腰に回した手を外せないまま上を見上げて言った。
「貸しは使わなくていいけど、鉄朗も手伝ってよ」
ネタBOX ▷ キャラ指定なし / 二人乗り