ゆめにキスして


 ベッドの中でスマホをいじる元也に、手始めにきゅうっとときめいて、視界に入ったテーブルの上のコップをシンクに置きに行く。元也がそこにいること、何気ないことにときめくくらいなのだから、自分でも計り知れないほど元也を好きなんだと思う。

 お布団というものは不思議なもので、まわりの空気も簡単にふわふわと心地の良いものにしてしまう。なんだか、元也に少し似ているかもしれない。

 スマホを充電器に差して私が来るのをじーっと待っていた元也が私と目を合わせてゆるく口角をあげて、半分掛け布団を捲ってシーツをぽんぽんと指先で触った。そしてまた、私はきゅうっと心臓が苦しくなる。

「なまえも入って」

 そのお誘いに、ふわふわとした心地を覚えながらベッドに座り、冷えた足を先頭にするすると暖まった布団に体を入れた。
 私に掛け布団を掛けてくれた元也がそのまま手のひらを私の髪に移動させて優しく撫でる。

「元也〜」
「んー?」
「……大好き」

 はらはらと落ちた私の髪を耳にかける元也にそう言うと、元也の背中に手を回して甘えるように見上げた。一瞬びっくりした元也から小鳥みたいに小さなキスが落ちてきて、すぐに離れる。

「俺も〜!大好き〜」

 極上の笑み。もしかしたら一生、私は元也がくれる笑顔が大好きなんだと思う。足の指先がまだ冷たくて、膝を曲げた元也の足が私の足を暖めるように触れていた。

「冷たくない?」
「……いや、冷たいよ?」

 それでも私の足先から元也の足は離れなくて、くっついたまま。湯たんぽでも買おうかな、なんて声を漏らすと、それもアリだなんて元也は同意する。元也の体温と、暖められていたお布団のお陰で、ていうかほぼほぼ元也のお陰で私の足はぽかぽかと熱を感じるようになった。

「明日仕事早いんだっけ?」
「あーあ、行きたくない」
「なまえ、今の仕事好きだってこの間熱く語ってたじゃん」
「言ったよ、言ったけど」
「けど?」
「元也の方が1000倍好きなの」
「なんでさ、そういう可愛いこと言うかね」

 折角の元也のオフだというのに、なんで私は仕事なんだろう。しかも朝が早いなんて、神様のいたずらとしか思えない。ていうか、いたずらなんてかわいいものじゃない。
 むっとする私の頭とシーツの間にゆるゆると笑う元也が腕を差し込み、私は慌てて頭を持ち上げた。

「腕痺れちゃうよ」
「へーきへーき、頭じゃなくて首のとこだし。なまえの枕ふかふかだし」

 元也にとって大切な腕に何かあっては困ると心配すると、腕を痺れさせない方法を見つけ出したらしい元也が笑う。いいからいいから、って。

「付き合ったばっかの頃言ってたじゃん、腕枕してよ〜って」
「……もー忘れてよー」
「嫌だね、絶対忘れてやんない」

 体勢が辛くなってきて恐る恐る枕に頭を乗せると、むしろ腕枕してる感じしない、と言う元也の不満げな顔がさっきよりも近くになった。
 抱き寄せようと伸びてきた元也の手が私の背中を通り越し、私の腰とシーツの間にぴたりと挟まる。腕枕している肘が私の頭を抱えて、最後に元也の優しい視線が私をとらえた。

「可愛いなぁ、俺のなまえは」

 唇が動く時、元也は私にキスをした後だった。ただ、そこからほんの数ミリしか離れず、恥ずかしげもなくそう言う唇が動く度に触れあった。
 ゆるゆると笑い合い、元也は思い出したように電気のリモコンに手を伸ばす。今日のところは寝るかって。

「……私、寝れるかなぁ」
「あ、じゃあどっちが早く寝れるか競争しよ!」
「それって誰が判定するの?」
「……」
「え、元也ずるい!」

 私が追いかけるように目を閉じてすぐ、部屋の明かりが消えたのがわかった。瞼越しでも。

 どっちが勝つのかわからない勝負があまりに子供じみていて、楽しい夢を見れそうな気がした。そして、一生元也に恋をしていたい、そう思った。


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