ただのバカップルです


 隣の大耳と、目の前の北。バレー部のふたりがこんなに席が近いなんて、私としては大助かりだ。北に関してはもう拝みたいほどに毎日お世話になっている。勉強でわからないところがあればすぐに聞けるし。教えるのうまいし。

 まぁ一番お世話になっていることと言えば、路成が部活中どうだったとか、怪我してないかとか、女の子にキャーキャー言われてなかったかとか、なんでもかんでもこの2人に聞きまくっていることだ。

「北、さっきの数学のこと聞いてもええ?」
「おん。ええよ」
「ここのな、この計算なんやけど」
「ややこしいよな、この計算式」
「やっぱ?大耳も思った?」
「俺も信介にあとで聞こう思てた」
「そんなややこしないで、順番にやればできると思う」

 素晴らしき北先生と、問題の解き方を教えてもらう私と大耳。3人でひとつのノートを覗き込み、数学の先生よりもわかりやすいプチ授業のようなものが私の机の上で行われた。

「そういうことかー!」
「えぐいな、信介の理解力」
「ほんまに。半分分けてほしい」
「俺も」
「あげへんで。お前らに半分ずつやったらなくなるやろ」

 北の一言にけらけらと笑ったところで顔をあげると、路成が逞しい腕を組んでむっとしながら私たち3人を見ていた。
 路成を見た瞬間、私の顔がぱあっと明るく晴れたのが鏡を見なくてもわかる。

「路成!どしたん?」
「廊下出たら3人が仲良う机にかじりついてたから見に来た」
「今な、北に勉強教えてもらってた!」
「へーそうなんや」

 その時、北と大耳は思った。これは面倒なことに巻き込まれた、と。

「7組羨ましい。なんで信介と大耳だけやねん。俺かてなまえと同じクラスなりたいし!」
「……とばっちりや」
「クラス替えは先生が決めとるから、俺らに文句言うても何も変わらんで」
「…わかってるわそんなん。なんやなまえは特に楽しそうに笑うてるし」
「なに?もしかしてやきもち!?」

 思わずその一言を口にしながら嬉々とする私のところにきた路成が机の上で腕を組んで、言うか言うまいかと考える表情をしている。

「あんなん見せられたらやきもちも焼くやろ」
「北先生の授業、禁止?」
「それはええけど!近い!近いねん!」
「そんな近かった?」
「おん。こんなんやったわ」

 ぐいっと身を乗り出した路成が距離を詰めて、しまったはずのノートを覗き込むような体勢になった。路成のこういうところ、毎回新鮮にときめいてしまう。路成の周りがまぶしくて見えないような気がするくらいに。

 私が見たかを確認してから元の姿勢に戻った路成が、近いやろ、なんて面白くなさそうに言った。

「近いけど、北とか大耳には別にドキドキしないし」
「……照れるやろ」
「ほんまのことやもん」

 ほんのり頬が赤くなった路成の頭をひとなですると、路成は組んである自分の腕に顔を隠す。かわいくて、かっこよくて、ひとなつっこくて。なんなん、私の彼氏は、と一緒に照れながら思った。

 北と大耳には大変申し訳ないが、所詮カップルの戯言だと許してもらいたい。
 今されたのと同じ距離に本当に二人がいたんだとしても、一ミリもドキドキなんてしてなかったし、もし路成とクラスが同じで、北の席に路成がいて、ずっと視界に入っていたらそれだけで普通にしていられる気がしない。クラス発表を見たあのときは、がっかりしたけど。

「似たもん同士やな」
「みょうじは赤木の話か勉強のことしか聞かへんから」
「北〜!」
「え、ほんまに?」
「…そうやけど。わ、悪い?」

 形勢逆転。まるっきりそのまま体勢を入れ替えた路成と私は、いずれ知ることになる。クラスのみんなにバカップルだと常々思われていたことを。

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