ぬくもりを半分こ


 月曜日だからって、毎週遊べるわけじゃない。先週は部活のみんなとスポーツショップに行ったって言ってたっけ。ちょっと寂しい。うそ。すごく寂しかったけど、いつも通り家に帰ったのは松川には内緒だ。今日が楽しみで仕方なかったのは、内緒じゃないけど、特に言ってないだけ。

 松川のお母さんは今日はいないらしく、促されるままに一静の部屋に入った。マフラーを外してコートを脱ぐと、スクールバッグの上に畳んだそれらを置く。どうあがいたって季節には逆らえない。春、夏、秋、とくれば当然に冬もやってくる。冬の匂いがするほど、おうちの中も空気はひんやりして寒かった。

「寒っ。暖房入れててよかったのに」

 ココアを持った松川が部屋に入って開口一番そう言い、エアコンのリモコンを操作した。そのセリフを言われたのは今回がはじめてではなかったけれど、自分の部屋のエアコンをつけるように堂々とリモコンをいじるのは出来なくて、今回もまたいつもと同じだった。

「いただきます」
「どうぞ」

 松川の入れてくれたココアは温かくて甘くてすごく美味しい。松川もマフラーとコートを脱いで、私の後ろで足を広げて当たり前みたいに座った。そっと後ろを振り向けば、松川がゆるりと口角をあげて笑う。
 後ろから伸びてきた手がもうひとつのマグカップ掴み、後ろで静かに松川の口へ運び、またテーブルに戻された。私たちは、どきどきするような日々はとっくに通り越しているけれど、それでも松川と私は恋人らしいままだった。


 うしろでさわさわと布の擦れる音がしたと思えば、松川が掛け布団を自分の肩にかけ、そのまま私をぎゅっと包んだ。ココアが溢れたら大変だとマグカップをテーブルに置くと、松川は私の腰を抱いて自分の近くに引き寄せる。なまえは寒がりだもんね、なんて言いながら。
 ぴたっと密着する体の間にはYシャツもブレザーもあるというのに、こんなに心臓がうるさくなる。

「ココア冷める前に飲みな」
「ありがと」

 マグカップをまた両手で包んで飲み始めると、松川の頬が私の頭にぴたっとくっつき、お腹まで回った手もそのまま抱き締められている。暖房がもう効いているんじゃないかと一瞬思うほどに芯から暖められている感覚になりながら、松川のペースにすっかり飲まれていく。

「そういえば今週の家庭科でね、クッキー作るんだって」
「クッキーか。いいじゃん。楽しみ」
「食べてくれる?」
「言われなくてもお前からもらうつもりだったよ?」

 大人みたいな同い年の彼が決まっていたことのようにそう言ってくれる。こうやって、欲しい言葉をくれる。
 大きな右手のひらが私の頬に沿い、そっと左を向くようにと動かされた。今から何が起こるのかなんとなくわかっていても、心臓の音が松川に聞こえてしまうんじゃないかと思うほど煩く、収まる様子もない。

 吐息が絡んだキスが頬に落ち、目尻やおでこにも順番がやってくる。どうしよう、とろけそうなのだけど。なんならこのまま溶けて、どろどろになりそうなのだけど。
 私の唇を伏し目がちに見つめる松川の唇が重なり、吸い付きながら少しだけ離れていった。

「…美味し」
「…ん、」
「ココアの味」

 度重なるキスが甘い。吐息のかかる距離で会話をして、また唇が重なると、いつまでもこうしていられたらいいのに、なんて夢みたいなことを思う。

 とろけそうな気分のまま手のひらを上にして松川に見せると、不思議そうな表情で大きな手が乗せられた。

 ……この大きな手に包み込んでくれる時間が大好き。バレーをする松川ももちろんかっこよくて好きだけど、それよりも。指先を撫で、長い指をなぞる。なんでこんなに違うのかな。私みたいにふにふにしていない、逞しくて、うっすら骨ばってて。

「なまえ、続きは?」
「…まって。松川の手堪能してるとこなの」
「……なぁ」
「ん?」
「たまには名前で呼んでよ」

 どきりと心臓が波打ち、くすぐったくなる。松川を一静と呼ぶことは、もう簡単になっていてもおかしくないのに。未だに、くすぐったい。

 わかってる。二人きりになると、私をなまえと呼んでくれる松川に、いつもいつも幸せをもらっているということも。

「呼んでよ。ごほうびあげるから」

 またそうやって、ゆるく口角をあげて言うんだもん。本当ずるいんだから。


3万打企画