秘密にキスしたい


 ちょっと広めの個室に、10人ほど。サークルの飲み会のような雰囲気に似ているような似ていないようなこの集まり。何にせよ全員が仲良く、盛り上がっているのは身を持ってよくわかる。

 今日の京治くんは大学にいるときよりも若干表情が豊かで、楽しそうで。
 みんな高校の時のバレーの仲間らしいけど、よくよく話を聞けば京治くんのいた梟谷のバレー部じゃない人も何人も混じっているみたい。なんで私が混じっているかって、この中の彼女連れの一人が彼女も行きたいって言ってると言ったのが私がここに来るきっかけだった。

 こういう場って、本当に性格が出ると思う。京治くんと私は角をゲットして、その場から動かずにマイペースにお酒を飲んでいる。掘りごたつから足を上げて座敷の上で体育座りをすると、ロングスカートを整え直して膝を抱えた。

 ビールジョッキを持ってあちらこちらへと移動する木兎さんと黒尾さんを見て、本当に人懐っこい二人だなんて思う。

「木兎さんと黒尾さん、面白いね」
「……そうだね。木兎さんに至っては高校の時からずっとあのままだけどね」

 目元を緩めた京治くんと目が合うと、膝を抱えていた私の手をこっそりと取り、テーブルの下に隠した。京治くんの指と私の指がするすると絡み、誰かに見つかるんじゃないかってそわそわと心が忙しくなる。
 京治くんの親指が私の撫で、秘密の触れ合いがだんだんと大胆になってくる。私の顔が赤くないかとか、そんな心配ばかりを頭に浮かべながら京治くんを横目で見ると京治くんは周りのやりとりを淡々と眺めていた。

「あかーしのカノジョ!飲んでる!?」
「飲んでますよー」
「なまえ、ごめんね」
「……?」
「この二人すでにちょっと酔ってると思う」
「オイあかーし!俺はまだ酔ってないぞ!楽しいけどな!」
「いや、普通に酔ってますよね」
「いやいや木兎だけな、俺は酔ってないよ?」

 木兎さんと黒尾さんは私たちの向かいに満開の花みたいに笑いながら座り、出会いはなんだとか、どっちが先に惚れたんだとか、根掘り葉掘り質問してくる。

 人知れず触れ合う手が熱い。お酒のせいか、それ以外か。私はされるがままに触れられているだけで、京治くんはじーっと私を観察して私の反応を伺っていた。耐えられず小さく首を振る。恥ずかしくてどうにかなってしまうかもしれない。静かに笑った京治くんが視線を目の前へ移動し、平然と木兎さんと黒尾さんに話を始める。

「お二人の彼女さんは来られなかったんですか?」
「もう予定が入ってたらしくてよー」
「……赤葦。今しれっと自分達の話題から話すりかえようとしただろ〜?木兎は騙せても俺は騙せないぜ」
「……そうですか」
「はっ!そういうことなのか!?」

 いつもならきっとこんな楽しいやり取りをみて笑うのだけど、今はそんな余裕はゼロに近い。京治くんって。こう見えて。めちゃくちゃスタイリッシュな感じに見せておいて。心臓に毛が生えてるんじゃないかなんて失礼な事を思った。

 他の人に呼ばれた二人が目の前から居なくなると、繋いだままの手をぎゅう〜っと力いっぱい握って反撃する。全然効いてないけど。

「私の顔赤くない?」
「赤いけど、平気でしょ」
「……赤いのに!?」
「酔っぱらってるって言えばどうにかなるから」

 一瞬、京治くんめっちゃ頭いいじゃん!と思った私を一発殴ってやりたい。この手が見つかったらどうするのって、そっちが一番大事なのに。
 ぐいっと飲み干した空のグラスの氷がカランと音を立てると、放置された大きなメニューを拾った京治くんが広げ、見開きの端を二人で持った。
 ドリンクの欄を探していると、繋がれた手がついにほどかれる。京治くんはそのまま私の後ろの座敷に手をつき、メニューを壁のように立てながら視線を私に注ぐ。

「な、なに?」

 疑問を口にした瞬間、京治くんの薄い唇が重なって、すぐに離れていった。何食わぬ顔でメニューを閉じ、知っていたかのように飲み放題のメニュー表を私に差し出した京治くんは、楽しい遊びでも見つけたみたいに言った。

「なかなかスリリングだね」
「……京治くんやりすぎ」

 飲み放題メニューで顔を隠して固まっていたら、戻ってきた木兎さんは、あっけらかんとして不思議そうに私の顔を覗き込んだ。

「あかーし!彼女の顔すげー赤いぞ!」
「……ですね。もう酔ってきたみたいです」
「帰りちゃんと送ってやれよ!」
「それはもちろん」

 本当に計り知れない。私の知らない京治くんのいろんな面がまだあるんじゃないかって思っちゃう。
 次のお酒を決めるのは、まだ少し時間が必要かもしれない。顔の熱が、いつまで経っても治まらなくて。

3万打企画