はいはい可愛い ビールと、チューハイが1本ずつ。ショートパンツにTシャツを着て、治のパーカーを余らせながら羽織るなまえが帰宅したばかりの治の視界に入ると、治に気付いたなまえがふらふらと立ち上がり治の首に手首をかけた。
「おさむ〜!おかえり〜!」
「……なまえめっちゃ酔うてるし」
「そー?」
飲み会終わったら帰ってくるとなまえは言ったが、家で二次会を1人で開催するなんて予想を恋人の治は全くしていなかった。見たところお風呂にも入ったようだし、なまえも一応冷静な部分もあったのかもしれない。すぐ寝てしまってもどうにかなるように。
治の首にかけていた手を下ろしてなまえはまたふらふらと冷蔵庫に向かう。口を尖らせ、うーん、と悩むようにビールをもう1本取り出すと、治が制止しようと声を出そうとした時にはプルタブの開く音がした。なまえの表情はごきげんそのもの。
「治聞いてよ〜、今日な〜」
「聞く聞く。聞いたるから。もう止めとき」
「え〜もっと飲みたい。今日な、ぜーんぜん飲んでへんねん」
「今日は接待みたいなもんや〜て言うてたやろ?はい没収〜」
ひょいっとビールを取り上げた治がなまえの届かないほどの高さまで腕を上げ、なまえは爪先立ちで手を伸ばした。家でこんなにお酒を飲むことがないからか、こんなに気持ち良さそうに酔っぱらうなまえを見れるのはなかなかない。
格好的にはいつも通りに完全に無防備ではあるが、普段よりも隙だらけである。いつも心なしかお姉さんぶっているというのに。
なにより楽しそうな、へらりと笑うなまえの顔をもう少し見てもいいかと治は思った。なまえは明日休みだし、と。
むっとするなまえが先ほど口をつけたばかりのビールをぐいっと飲むと、あ〜!とふざけるように怒るなまえに治はついつい笑って、量の減ったビールを返した。
「めっちゃ減った!」
「人聞き悪いな、減らしてやったんやけど」
反撃するでもなく両手で缶を持ち、むっとしながらテーブルに向かったなまえの顔を見た治は、楽しそうになまえの隣に腰を下ろした。テーブルの上にはおつまみなどはなく、つけっぱなしのテレビから笑いが響く。
「空きっ腹に酒飲んだら酔うで」
「……だってな?」
「おん」
「おつまみ買うの忘れた〜!ってなったん、お風呂入った後やったし」
テーブルに頬をつけ、訴えるようにそう言うなまえの目が少しだけ潤んでいる。お酒のせいだろう。テーブルに片ひじをつき、なまえを眺める治は、口の端を少しだけ上げて言った。
「偉いやん、ちゃんと我慢できて」
「せやろ」
またへらりと笑ったなまえは、ビールをあっという間に飲み干し、液体の揺れる音を期待して缶を踊らせてみたが、残念ながら無音だった。
「おさむ!なくなった!」
「これで終いやな、水持ってくるわ」
ふう、と一息つきながらカーペットに手をつき、立ち上がろうとした治の腕は突然ぐっと下へ引っ張られる。もちろん、なまえに。
「いちゃいちゃしよ〜」
「いや、なまえの水持ってくるんやけど」
「いやや、いちゃいちゃしたい!」
「またえらい積極的やな」
「邪魔すんな〜!いちゃいちゃすんねん!」
「どこに居んねん、邪魔もんは」
「知らん!早く〜」
しっかりアルコールが入り顔を赤らめるなまえから一旦視線を背けた治は、自分の腰にきつく手を回しながらしっかり酔っぱらうなまえの言葉に、整理をつける暇もないほどの勢いのまま心の中でわなわなする気持ちを抑えるばかり。
そして、目を赤くして潤む瞳をもう一度見て、心の中でぐるぐると増えた悩みを黙って考えた。
……なまえの言うてるいちゃいちゃって、なんなんやろか。
3万打企画