くすぐったいよ 心地よいお日さまが出ていて、ちょっと冷たい風も吹いていて。教室の窓際で練くんと二人で並んで日向ぼっこをするのはなんといっても最高で。
窓からグラウンドを見ると、練くんと私に気付いた宮侑くんがちっちゃくお辞儀をしてから大きく手を振ってくれる。
隣の練くんがどう反応しているのかと見上げれば、練くんは手を振らずに軽く上げ、すぐに下ろした。表情は特段変わらず、いつも通りだ。それがあまりに彼らしくてにんまりとしながら下から覗いていると、さらりと目が合って少しだけ練くんの口角が上がった。ほんの少しだけ。またグラウンドに視線を下ろすと、宮侑くんがにやにやとしながらこちらを見上げていた。
「うちらめっちゃ見られてるよ、侑くんに」
「せやな」
「なんかにやにやしてるし」
「多分ここに居んのが北やったら、あんなにやにやせぇへんやろな」
「わかる。北くんやったら、な」
そう言いつつも、侑くんのはしゃぎようが面白くて笑ってしまう。ふと感じた視線を辿って見上げれば、つまんなそうにする練くんが私を静かに見ていて、他の男子よりも大きい練くんの近くに猫みたいにすり寄った。
「今日はほんまに天気ええね」
「……近いな」
練くんが半歩ずれて距離を取ると、私はまた一歩ずれて練くんに近づいた。私が詰め寄ると、ぐぐぐと効果音が聞こえそうなほどにどうしたらいいかわからない顔をしていて、いたずら心が忙しく働くばかりだ。足の大きさも、手の大きさも、もちろん身長も、練くんと私は全く違う。練くんは教室ではみんなの知っている練くんで、私と二人の時は彼氏の練くんになる。でも、今はやっぱりみんなの知ってる練くんだ。
いつも通りにざわざわと騒がしい教室で、私が誘った日向ぼっこに付き合ってくれるあたり、結構堂々としていると思うけど、練くんはそれに気づいていない。時々さっきみたいに、近いとか言ってくるけど。
「あはは!」
「めっちゃウケるやろ?」
廊下から聞こえた隣のクラスの友達の声に、はっと思い出す。そうだった、なんか教科書貸してって言ってたっけ。それからさっきのいたずら心がそのまま成長し、練くんの腕の下をくぐって窓と練くんの間にするりと入り込む。ぎょっとする練くんは珍しくて、声を出そうとした練くんに向かって慌てて振り返り、人差し指を立てた。しー、って。窓の外を見れば、体操着に着替えた2年生が楽しくお喋りをしていて、身を縮めて友達の声がするのを待つ。練くんの影に隠れられるか試してみたくなって。
「なまえー、教科書貸してー」
「あれ?なまえ居らんな」
「仕方ないな、まあええわ。勝手に持ってってええて言ってたし」
練くんが小さく私の名前を呼び、めいっぱい首をぐりんとして振り返れば、練くんが言葉もなく目で訴える。ええんかって。こくこくと首を縦に動かした。友達の言う通り、勝手に持ってってええよって言ったし。
「……あ、」
「……なまえ〜借りるで〜」
友達の様子が変わっても身を隠していると、上履きがぱたぱたと音をたて、横から友達が顔をひょこっと出して言った。借りるで、って。にやにやして。
「なんでバレたん!」
「大耳が足閉じとったら見えんかったと思うで」
「……練くんか!」
ぐるりと顔を振り返って言えば、練くんはなんのこっちゃといった顔をする。邪魔もんは退散するわー、なんて言いながら帰っていく友達に手を振れば、練くんが私の近くから逃げようとしているのを察知して、腕を捕まえる。
到底力では勝てないはずなのに、練くんはちっとも逃げない。何だかんだで私に付き合ってくれる練くんに、私は簡単に自惚れてしまうんだ。ちらっと時計を見て、練くんをまた見た。
「また日向ぼっこ一緒にしてな」
「次は教室以外がええな」
「廊下とか?」
「それは教室より目立つやろ」
「ええやん、たまには」
重たい練くんの腕を私の前に下ろしてぎゅっと掴んで引き寄せれば、練くんが仕方ないとでもいうようにぎゅうっと一回だけ包み込むように抱きしめて離れていった。
「もう予鈴鳴んで」
「え〜」
「え〜、ちゃうねん」
「え〜」
「……だから」
目が合った練くんが、私のむくれる顔をみて思わず笑った。間違いなく、アホやな、って思ってる顔で。
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