めろめろなんです


 ローファーに履き替えて傘立てを横切ったあたりから、つかさの腕にぎゅっと抱きつく。嬉しくて、離れたくなくて。

「機嫌良いな、なまえ」
「つかさと一緒に帰るの久しぶりだからね」

 浮き足立つ気持ちを抑えずに、いつでもどこでも抱き締められたいと思うその腕に抱きついたままで校門を抜けるとそのまま駅前へ向かう。

「ゲーセン行くんだっけ」
「うん。ゲームしたいし、プリクラも撮りたいなぁ」
「……プリクラかぁ」

 あまり乗り気じゃなさそうなつかさを見ながら、つかさとの記憶を辿った。つかさと私はおうちでデートしたり買い物をしたりすることはあったけど、プリクラって撮ったことないんだよね。この間、友達が彼氏と撮ったプリクラを見せてくれて、その事実に気付いてしてしまったのだ。

「つかさってプリクラ撮ったことある?」
「ない……?あ、あったわ」
「え!あるの?誰と?」
「バレー部の奴ら。去年だな、古森がたしか言い出して」

 一瞬肝を冷やしたけど、答えはまさかのバレー部の人たちだった。古森くん言いそうだわ、納得。

 腕を組んだままつかさの顔を覗き込み、ねえいいでしょ、と甘えるように言うと、いいよ、と一言だけ言って頭にぽんと手が乗った。

 駅前のゲーセンは結構広くて、色んな学校の生徒がデートしたり遊びに来ている。店内のスピーカーで流れている音楽も聞いたことはないけどテンポが良くて、リズムゲームもそこそこに音が大きい。

「……た、」
「ん?」
「久しぶりにきた!」

 いつものトーンで話したつかさの声が聞こえなくて爪先立ちで顔を近付けると、つかさがすこしだけ声を大きくして、私の耳元でもう一度言った。
 なんでもないことなのに、視線を交わらせればいつも学校で話すよりも距離が近くて、一瞬どうしたらいいのかわからなくなった。

「なまえ、カートゲーム得意?」
「小学生の時とかは家でやってたよ」
「じゃあやろうぜ」
「いいよ!」

 ちょうど近くの壁面に並んでいたカートゲームが2つ並んで空いたから、誰も待っていないことを確認してからそれぞれ椅子に座った。やるとなればお互いヤル気満々で、負けるつもりはない。
 キャラクターをそれぞれ選んでからもうすぐレース開始という時、いたずらに笑いながらつかさがちらっと私に視線を寄越しながら言った。

「なまえが勝ったら、言うこと聞いてあげよっか」
「え!つかさが勝ったら?」
「あー、じゃあ勝った方だけ教えるってことで。ほら、始まる」
「え、スタートダッシュ準備してないのに」
「あはは」

 スタートダッシュに失敗した私は5位からの巻き返しをはかってアイテムをゲットし、つかさを追いかけていく。つかさは今2位で、1位のコンピューターと競っているところだ。

「こいつ早えー」
「つかさゲーセン久しぶりなんじゃないの!?」
「久しぶりだって」

 冷静に競り合うつかさの画面をチラ見してから私の画面に視線をすぐに戻した。私も何気に感覚は覚えているらしく、アイテムの使いどころはなかなか良いような気がする。
 地味に順位を上げて3位までいくと、つかさを含む前2人が競り合っているのに追い付こうと躍起になっていた。つかさがコンピューターにアイテムをぶつけて1位になったところでもう残すところ半周となり、私のアイテムルーレットにスターが出たものだからすぐにそれを使ってぴゅーんとスピードをあげると、あっという間にゴール直前のつかさを追い抜いてゴールに入っていった。

「……あれ?俺2位じゃん!」
「やった〜!1位〜!」

 シートからおりてバッグを肩にかけ、喜びながらつかさの腕にまた腕を絡めると、納得しきれないようなつかさが私を見て、いつのまに後ろに居たんだよ、と笑いながら言った。

「じゃあ言うこと聞くわ、ひとつな」
「んー……」
「まぁゆっくり考えていいから」
「もう決めた!」

 つかさの腕に抱きついたままカートゲームを離れると、プリクラのコーナーへ向かった。色々と吟味して、ナチュラルに撮れそうなのを選ぶ。つかさの睫毛がバサバサになったらなんか嫌だし。

「これにしよー」
「なまえに任せるよ」

 訳のわかっていないつかさをよそにお金を入れてコースを選び、見本と共に指定されたポーズを真似して1枚、2枚とシャッターが切られていく。今のところどのポーズもぎこちなくて、私は笑いっぱなしだ。全部で4枚だからあと2枚。

『次はこのポーズ!』

「つかさ、これじゃなくて」

 そう指定された時に、つかさの遠い方の手を引っ張ってこちらへ向かせると人差し指で自分のほっぺたを指差した。

「え?」
「はやくー」

パシャッ

 数秒出る確認画面には戸惑うつかさとおねだりする私がうつっていた。最後のポーズの声を無視して言う。何でも言うこと聞いてくれるんでしょ、って。
 仕方ないとでもいう表情のつかさが、掴まるように私の背中を手をまわし、ほっぺに唇を軽く当てる。
シャッター音の後に離れていって、視線がまた交われば、ゆるゆると笑う。

「チュープリだ」
「あー、恥ずかしい」


 プリントアウトされたものをチェックして、私はにんまり。チェーンで繋がれたはさみで半分にカットすると、つかさに片割れを渡す。

「どこにも貼らないから、財布に入れていい?」
「ああ。これ以外は好きに貼っていいよ」

 恥ずかしそうにつかさの指が差したこれは、最初からどこに貼るつもりもないけど、やんわりと念を押されたように思える。これって、そう、チューしてるやつね。

3万打企画