動かない夏

 隣の家が非常に賑やかである。母がおばさんに聞いた話では昨日から光来が帰ってきてるらしい。納得だ。確かにセミの鳴き声と光来ん家から聞こえる声は私の耳にしっかり入ってくる。

「なまえ、星海さんとこにとうもろこしお裾分けしてきてよ。光来くんと積もる話もあるでしょ」

 正直なところ、話はなんも積もってない。けどまぁいいか、暇だし。すでにとうもろこしが大量に詰め込まれていたビニール袋を母から受け取ると、適当なサンダルを履いた。別にとうもろこし渡しに行くだけだし。


 ……ピンボーン


 インターフォンを押すと、おばさんの「ちょっと今手離せないから光来出て!」との声。窓から丸聞こえである。光来に会うの久しぶりだな。
 1歩下がって玄関扉が開くのを待っていると、おばさんのお願い通り光来が出てきた。

「おお!なまえ!」
「久しぶり。これ、お母さんから」
「………やった!とうもろこし!」
「早めにおばさんに茹でてもらって食べて。新鮮な方が美味しいよ」
「おう。ありがとなー」
「ということで帰るわ」
「上がってけば?」
「光来ん家にお邪魔する用は特にないんだけど」
「……あらなまえちゃん!どうしたの?」
「なまえんちのおばさんからとうもろこしだって」
「わぁ美味しそう!すぐ茹でなきゃね!今光来の試合のビデオ見てるのよ〜!なまえちゃんも上がって上がって」

 目の前でどんどん進んでいく会話についていけないまま、気づくと私は適当に履いてきたサンダルを脱いでいた。飾ってある小学校の壁掛け工作などが視界に入り、ふと懐かしさを覚える。それも当然だ、光来ん家に入ったの久しぶりだし。
 休日ということもあってか、おじさんもいらっしゃる。

「おお。なまえちゃんも帰ってきてたのか。久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「大人になったな〜!」
「あはは、もう結構大人ですよー」

 光来と私は同い年の幼馴染み。おじさんは計算しなくともわかる年齢思い浮かべたのか、嬉しそうに麦茶を飲んでいる。

「あ、私この試合テレビで見たよ。光来アタック決めまくってたよね」
「もうすぐ……これ!」
「冷静な判断で決めましたね〜光来選手。すごーい」

 ふざけて解説者みたいに光来をほめると、鼻高々になっている表情。相変わらず面白い。光来に促されるままダイニングのイスに座ると、なにも言わずとも出てきたカルピスを見ておばさんにお礼を言って口をつけた。この、ちょっと濃いのが美味しいんだよね。氷が溶けてちょうど良くなるくらい。

 久しぶりだというのに特別な会話もなく、試合を見て皆で色々言い合う。おじさんと、光来と、私と、時々おばさん。

「なまえちゃんもとうもろこし食べていく?」
「じゃあ半分だけ」

 おばさんが半分に切っておいてくれたとうもろこしを取ると、星海家の面々は各々1本ずつとうもろこしを取ってかぶり付く。光来がすごい早さでとうもろこしを食べていくのを見て思う。良い食べっぷりだ。私はというと、テレビにうつる光来の試合を見ながら2列ほど指で粒をつまんで取ると、ちまちま口の中に入れた。親指を使って空いた方向にとうもろこしを列ごと倒すと、気持ちいいくらいキレイに取れる。

「なまえの一列食べ!子供の頃から同じじゃん」
「かぶりつくのが美味しいのはわかってるんだけどね。この方が手がベタベタしなくて好きなんだよ」
「缶詰食ってるみたいだろ」
「……今光来が余計なこと言うからそうとしか思えなくなってきた〜」

 確かにそのままかじるとジュワってとうもろこしの味するけど、粒で取って食べると缶詰食べてるっぽい。光来め、気付かなくてもいいこと気づかせたな。

 窓の外にかかった風鈴がチリンチリンと鳴る。私たちが子供の頃からある金魚の絵柄が入った風鈴は夏になると窓の外を定位置にして毎年あそこで風を知らせている。ティッシュをゴミ箱に捨てて、空のグラスを流しに片付けた。

「おばさん、ごちそうさまでした」
「なまえ帰んの?」
「うん。そろそろ」
「また遊びに来てね」
「ありがとうございます。お邪魔しました。光来、怪我しないようにね」
「おう」
「テレビ越しだけど応援してるよ」
「おう」

 いつも通りの別れだ。サンダルを履いて外に出ると、多分さっきと同じセミが鳴いている。何も変わらない。きっとまた光来に会う時も。


ネタBOX ▷ 誰でも / 夏っぽいはなし