ファーストインプレッション

 白く、すらりと伸びた手足に、かわいらしい笑顔。少し考えないと何年目かわからないほどの付き合いになっている美容師の安斉さんは、てるてる坊主みたいな白いケープを巻く私の髪を軽快にハサミを動かして切っていく。

「ちょっと久しぶりだね」
「そうなんですよ。普通に仕事帰りに寄れるんですけど、せっかくならお休みの日にゆっくり来たいなって思って」
「たしかに。気持ち切り替えたいよね」
「ほんとそうなんですよ!」

 体の中に溜まっているものを吐き出すようにしみじみと相槌をうつと「慣れてきた頃に一回辛くなるよね」なんて納得しまくりの返事が来たものだから、相槌を通り越して深いため息が出てしまった。

 話が盛り上がってる最中、静かに現れて鏡に映り込み、じーっと立っているスタッフさんは初めて見る人だ。通っている歴としては古株だからか、大体のスタッフさんは把握しているし会話はなくても認識しあっている自信がある。綺麗に染まった髪と、ツーブロックの似合うこと。モテそうな人だなぁ。
 この感じはきっと安斉さん、他のお客さんの方へ向かわなければならないんだろう。アシスタントさんと少し話して、こちらを向いて。

「みょうじさん、シャンプーだけ変わりますね」
「はーい」

 間延びした返事をすると、アシスタントさんの綺麗に染まった髪に目がいく。そうだ、初対面の方だった。
 ここに来るとリラックスしすぎる。居心地云々、スタッフさんにも安心しきっているから仕方ないんだ、そう思おう。

「シャンプー選べるんスけど、2種類あって、」
「バニラで……あ!すみません、遮っちゃいました」
「みょうじさん、いつもバニラですか?」
「…ですね。よく考えたらバニラばっかりかもしれないです」
「じゃ、覚えときます!みょうじさんはいつもバニラ!」
「あはは、ありがとうございます」

 元気な人。友達沢山いそうだな。明るくて、笑顔が自然で、距離感が近くて、美容師さんに向いてる感じ。喋りは時々軽いけど、それもまた正解なのかもしれない。


「はい!お疲れさまでした〜」

 イスに乗っていたブランケットをどかして、促されるまま座るとくるりと鏡と向かい合った。

「マッサージして大丈夫ッスか?」
「お願いします」
「強さ加減言ってくださいね」
「……あ〜〜もう少し強めでお願いします」
「おお。スゲー凝ってますけど」
「ですよねー」

 毎回言われる。肩揉まれるとほぼ100%で。座り仕事を原因にするにしても、猫背になりがちなのが悪いんだとはわかっているのだけど。
 あっという間にマッサージが終わると、ちょうどいいタイミングで安斉さんがやってきた。手伝ってくれる?と一言。アシスタントの彼に、お願いすると二人ともドライヤーを持つ。

「そういえば、みょうじさんいくつだっけ?」
「23ですね」
「あれ。てるしー同い年じゃない?」
「そうッスね!」
「……あの。てるしーって呼ばれてるんですか?」
「うん。あだ名ね。照島くんの」
「あだ名呼びなんだ」
「みょうじさんもいつか呼んでください!」
「ね、ほら。てるしーこんな感じだからみんな気づいたら呼んでたよ」

 こんな感じという言葉に含まれる内容を簡単に理解すると、ドライヤー中に繰り広げられたやり取りが面白くて、ついつい誘われるように笑う。空気が明るくなる感じだな、照島さんがいると。


 髪がさらさらと指の間を滑る。綺麗にブローされた証拠だ。あとはセットしてもらって終わりになる。

「そういえば、この通りにコンビニできるんですね」
「オープンもうすぐだよ!私あのコンビニ好きなんだ〜」
「近いから便利ですしね」
「そー。それも大きい」
「私もちょこちょこ使うと思いますよ、多分」
「ばったり会うかなぁ」
「うん、会うかもですね」

 何気ない一言から派生して盛り上がる話は女子特有のやつだと思う。こういうの、楽しいから好きだな。
 二面の鏡を後ろで広げられると、流すようにささっと見て、すぐに満足する。カウンターに行き、鍵を渡すとにこにこ楽しそうな照島さんが荷物を持ってきてくれて、やっぱりつられて笑って受け取った。

「どうぞっ」
「ありがとうございます」

 支払いをしながら、外を見る。天気予報通り、おでかけ日和のすっきりした晴れだ。このまま帰るのはもったいないと思わせてしまうくらいの。

「今日はほんと天気いいね」
「公園とか行きたくなりますね」
「ピクニックデートとかさー」
「デートかー、相手がなぁ」

 ふざけたように言うと、安斉さんが笑う。付き合いが長いからできる会話だ。受け取ったおつりをしまっていると、カウンター内でパソコンを操作していた照島さんが真剣な顔をしてる。

「高校ん時の俺だったら、みょうじさんに絶対ナンパしてますけどね〜」
「うわ、てるしーチャラ男」
「今は違いますよ!」

 今は、って。どんだけ正直なの。
 そう思っている間に、今日のときめきチャンスは過ぎ去っていた。